ブログ ウィルト・チェンバレン 記録

Published on 11月 22nd, 2014 | by Tunaパスタ

10

バスケ界の伝説 ウィルト・チェンバレンの「100点ゲーム」はこうして生まれた

1960年代のNBAを席巻した伝説のセンター、ウィルト・チェンバレンは、後世のプレーヤーたちが誰も近づくことのできない数々の大記録を作り上げた。中でも特に有名なのが、1962年3月2日に打ち立てられた「1試合100得点」だ。

NBAの歴史で1試合に三桁の得点を獲得した選手はこれまでにウィルトただ一人。バスケットボールというスポーツが存在する限り永久に語り継がれていくであろうプロスポーツ界の神話である。

誰もが知る伝説中の伝説だが、その日の映像が残念ながら残っておらず、試合の詳細まで語られる機会もあまりない。スリーポイントすらなかった時代に、一体どのようにして48分間で100点というスコアを積み上げたのか?そこで今回は「100点ゲーム」の背景と経緯を詳しくみていきたいと思う。

▼ウィルト・チェンバレン、キャリアハイライト

当時と今のリーグは…

試合の詳細に入る前に、まずは当時と今のリーグの平均身長/体重を参考までに比較しておきたい。以下、「プロフェッショナル・バスケットボール・リサーチ協会(APBR)」のデータより:

シーズン 平均身長 平均体重
1961-62 197cm 94kg
2000-01 201.3cm 101.9kg
2008 200.6cm 100.2kg

100点ゲームが樹立した1961-62シーズンのリーグ平均は身長197cm/体重94kg。2008年の平均は身長200.6cm/体重100.2kgで、シャキール・オニールが全盛期の2000年は201.3cm/101.9kgだった。それほど大きな差ではない。

当時のウィルトは身長216cm/体重125~130kgで、現役時代のオニールは216cm/147kgだ。「ウィルトが当時のリーグを圧倒できたのは、今のリーグと比べて相手が小さすぎたからだ」とする意見をたまにみかけるが、決してそんなことはない。

マッチアップ

1962年3月2日、この歴史的記念日にウィルト率いるフィラデルフィア・ウォリアーズと対戦したのは、低迷期真っ只中のニューヨーク・ニックスだった。

試合に臨むにあたっての両者の成績は、ウォリアーズが46勝29敗でイーストディビジョン2位。対するニックスは27勝45敗でイースト最下位。いわば、リーグ優勝を狙う強豪チームとプレイオフ進出が絶望的な弱小チームの対戦だ。

それに加え、この日のニックスは先発センターだったフィル・ジョードンが試合を欠場している。表向きは風邪ということになっていたが、当時のチームメイトによると、本当はただの二日酔いだったらしい。そこでジョードンの代わりに怪物ウィルトとマッチアップすることになったのは、身長208cm/体重100kgのプロ2年目センター、ダレル・インホフ(Darrall Imhoff)だった。

1962年当時のインホフのアベレージは1試合5.9得点、6.2リバウンド。後にオールスター出場を果たす選手にまで成長するが、歴史は彼を「100点ゲームでウィルトの相手をした選手」として記憶する。

こうして先発出場したインホフだったが、ウィルトの圧倒的なプレーを前にファウルトラブルに陥り、わずか20分しかフロアに立つことができなかった。2005年に出版された書籍『ウィルト、1962』によると、試合序盤で3つ目のファウルをコールされたインホフは、審判に向けて思わずこう口走ったらしい:

「なあ、もうウィルトに100点あげて、みんなで家に帰るってのはどうだ?」

スタメンセンターは欠場で、控えも全く通用しない。最終的にニックスはさらにサイズの小さいクリーブランド・バックナーをウィルトにぶつける決断を下した。

バックナーの体格は206cm/95kg。しかもプロ1年目ドラフト6巡目ルーキーだ(当時は9チームのリーグだったため全体51位指名)。身長・体重、経験、技術などすべての面で遥かに上回るウィルトを止められるはずもない。

このようにして、伝説を生みだすための格好の舞台が整っていたわけだが、それでもNBAはバスケットボール最高峰のプロフェッショナルリーグ。高校生が小学生を相手にするように簡単にはいかない。100得点というのはやはり非現実的な数字だ。

スタッツ

ウィルト 100点ゲーム スタッツ

この画像は「100得点ゲーム」のスコアボックス。上から3番目がウィルトの成績で、FGはシュート成功数、FTはフリースロー成功数/アテンプト数、そして右端のPtsは得点数を表している。

この日のウィルト・チェンバレンは48分のフル出場で63本中36本のシュートを沈めた。63本のフィールドゴールアテンプトだ!!45~6秒につき1本の計算。100得点以前に、このシュート本数自体が奇跡的である。

Basketball-Reference」のデータによると、過去30年間で一人の選手が1試合に40本以上シュートを打ったのはたった22試合。50本以上は1度もなく、最も多かったのが1993年のブルズ対マジック戦でマイケル・ジョーダンが記録した49本だ。

コービー・ブライアントが81得点を獲得するのに要したシュート本数は46本(そのうち28本に成功)。ウィルトの100点ゲームよりも17本少なかった。

▼コービー81得点ゲーム

▼過去30シーズンの1試合FGアテンプト数トップ5

プレーヤー シーズン アテンプト数 成功数 得点
マイケル・ジョーダン 1992-93 49本 27本 64
コービー・ブライアント 2002-03 47本 17本 41
クリス・ウェバー 2000-01 47本 24本 51
コービー・ブライアント 2005-06 46本 28本 81
コービー・ブライアント 2006-07 45本 22本 58

一体どうすればウィルトは48分間で63本ものシュートを放つことができたのか?その答えは、ウォリアーズのチームメイトが一丸となって、自分たちのスタッツや勝敗よりもウィルトの得点記録樹立を優先したからだ。

その日の試合については、ウィルト本人が自伝の中で次のように語っている:

「チームメイトたちが私の記録達成を望んでいた。自分たちがノーマークのときでさえも、彼らは私にボールを回し始めた」

ウィルトさらに続ける:

私は100点ゲームの日にシュートを打ちすぎたと思っているよ。特に第4Qはね。チームメイト全員が100得点獲得に向けて私を後押ししたんだ」

特定の選手のスタッツを引き上げるために、チームメイトたちが完全ノーマークのオープンショットやレイアップを見送りパスを出す。今のリーグでこんなことをすれば批判の嵐は免れないだろう。

運も味方

ここで以下のクリップを見てほしい。

これは「100点ゲーム」から10年後の1972年に行われた試合での映像。ウィルトはフリースローがとにかく苦手だった。成功率はキャリア平均で51.1%。あのシャキール・オニールよりも精度が低い。

そんなウィルトが100点ゲームではなんと32本中28本のフリースローを成功させた。これはもはや奇跡!神がウィルトに100点を取れと告げたのだ!!

ウィルトは自伝の中でこう綴る:

「私は世界で最悪のファウルシューターだ。それでもあの夜は32本中28本、87.5%のフリースローを沈めたのさ。誰にでもラッキーな日は訪れるという証明だね。
数ヵ月分のボックススコアを調べてみるといい。実力のないプレーヤーの何人かが素晴らしいゲーム成績を残しているはずだから」

ちょっとしたミラクルなくして伝説は生まれない。

泥沼ファウルゲーム

ウィルト・チェンバレン 100点ゲーム 3

by cliff1066™/Flickr

当時のニックスのヘッドコーチだったエディー・ドノバンは100点ゲームの終盤についてこう語ってる:

「あの試合は茶番だった。ウォリアーズは我々を故意にファウルして、こちらも故意にファウルする」

第3Qが終わった時点でウィルトはすでに69得点を挙げていた。試合は125-106でウォリアーズの19点リード。勝利がほぼ確定したいわゆるブロウアウトゲームだ。

ウィルトのシュートアテンプト数はクォーター別に14本、12本、16本、21本と、第4Qに大きく伸びている。ワンサイドゲームの終盤で、圧勝している方のチームがエースをずっとフロアに残して、ボールを与え続けるという展開は非常に珍しい。だがこの日はチームメイトやコーチ、そしてスタジアムにいる全員(ニックス以外の)がウィルトの得点記録更新を望んだ。

観客たちは「ウィルトにボールを回せ!」と叫び、80得点を突破すると今度は100点コールが巻き起こった。その時ウィルトはこう思ったらしい:

「みんな厳しいな。もう疲れたよ。俺は80点取ったんだ。これまでに80点をスコアした選手なんていないってのに」

85得点を超えた第4Q残り6分あたりから、ニックスはウィルト以外の選手を狙って故意にファウルし始めた。同時にオフェンス面では無駄にボールを回して、ショットクロックギリギリまでシュートを打たないよう努めた。負けているチームがわざと攻撃を遅らせて時間稼ぎをする…。理にかなわない話だが、すべてはウィルトの記録更新を阻止するためだ。

それに対して、ウォリアーズも残り4分ごろからファウル戦術に走る。ニックスのポゼッションになると、すぐにファウルを仕掛けて最短でボールを奪い返し、再びウィルトに集めた。あるポイントでは、ウィルト以外のスターターを全員引っ込めて、ファウルさせるためだけに控えを投入したほどだ。どう考えてもリードしているチームが終盤にとるべき戦略ではない。

こうして試合は泥沼のファウルゲームに突入した。もしその日の映像が残っていたとしても、恐らく美しい試合内容とは呼べなかっただろう。そして試合時間残り41秒、ウィルト・チェンバレンがついに100得点目を獲得し、バスケットボール界の伝説は生まれた。

100点は100点

「100点ゲーム」についてネガティブな部分をいくつか取り上げてきたが、ウィルトの記録を過小評価しようなどというつもりは一切ない。スポーツ史上最も偉大な功績の一つという事実になんら変わりはないのだ。

どれだけマッチアップが弱かろうが、どれだけチームメイトからの自己犠牲的な協力があろうが、どれだけ試合終盤に不自然なファウルの応酬が巻き起ころうが正直関係ない。どんな状況であったにしろ、あの手この手で記録樹立を阻止しようとするプロ選手の集団を相手に、この男は36本のフィールドゴールと28本のフリースローを沈めて100点を奪った。

バスケの試合で100点だ!!

ウィルト以外で1試合に60得点以上をマークした選手は、長いNBAの歴史の中でわずか21人。ごく少数の選ばれた天才プレーヤーのみが到達できるスコアラーの聖域だ。70得点以上になると、コービー・ブライアント(81)、デビッド・トンプソン(73)、デビッド・ロビンソン(71)、エルジン・ベイラー(71)の4選手しかいない。そんな中で、ウィルトは60点+ゲームを32回も記録している。

仮に今のリーグのトッププレーヤーたちにウィルトとまったく同じシチュエーションを与えたとしても、恐らく100点に到達するのは極めて厳しいだろう。それほどウィルト・チェンバレンは唯一無二の怪物で、偉大な選手だった。

Thumbnail by sjsharktank/Flickr

参考記事:「Bleacher Report」、「Wikipedia

Tags: , , ,


About the Author

いつもたくさんのコメントをありがとうございます。最近、返信が遅くなっており、申し訳ありません…



  • くりあたま

    個人的には100得点より55リバウンドのほうが信じられません
    他にもダブルトリプルダブル(20pts,20ast,20reb)やクアドラプルダブルダブル(40pts,40ast or 40reb)などを見ると神話上のプレイヤーか何かと錯覚してしまいそうです

    • 確かに55リバウンドは異様ですね。
      私が1番好きなのは、1961-62に記録したシーズン平均出場時間48.5分、50.4得点、25.7リバウンドです。
      近年では40分の出場でオーバーユーズなんて言われますが、ウィルトはどうすればあの巨体でシーズン80試合+プレイオフを1度もベンチに下がることなくフル出場できたのか、まったく理解不可能です。
      ウィルトは地球外生命体だったんだと思うようにしています。

  • 龍 辰巳

    ははぁ、こうした背景の試合で達成された記録だったんですね。

    確かに、1試合70点以上となると、平均得点でチェンバレンの上に立っている「神様」ジョーダンですら達成してないですもんね。その事実を100点試合の裏話と合わせると、ある意味では、自然な流れでシュートを打っていたら一人でそれだけの点数入れることにはならないしその必要もないということなのかもしれませんね。

    もちろん、不滅の大記録には違いないですね。

    • 確かにジョーダンは70点以上記録したことがありませんが、試合内容やパフォーマンスという面でみれば、1986年プレーオフでジョーダンが記録した63得点の右に出るものはいないかもしれません。

      まあ、試合には負けちゃったんですが…。

      ただプレイオフという大舞台で、相手は黄金期真っ只中のボストン・セルティックス。しかも球場はボストン・ガーデンです。その年のセルティックスはホーム成績が40勝1敗で、最終的にNBAチャンピョンになりました。

      大一番で最強の敵を相手に、最高のプレーをしたというところがやはり「神様」ですよね。まあ試合には負けちゃったんですが。

      • 龍 辰巳

        おぉ、これは確か、プレイオフの一試合最多得点記録をジョーダンが記録した試合ですよね。
        黄金期真っ只中のセルティックスに対して、確かブルズはまだジョーダン以外にめぼしい選手がいなかったんですよね。バード、パリッシュ、マクヘイルのトリオは、史上最も一緒に勝った試合数が多いトリオだと聞いたことがあります。
        バードの「あれはジョーダンの姿をした神だ」という名言も確かこの試合後ですよね。
        シーズン中はもとより、プレイオフの大舞台でこういうプレイが出来るのが、なるほどジョーダンが神様たる所以なんでしょうね。

  • 一番搾り

    動画を見る限りでは、今のリーグにいたら、間違いなくNo.1センターになったでしょうね。
    名シーンだけの編集かもしれませんが、あの身長であのクイックネスは驚異的(–;)
    まさに、反則キャラです(笑)
    可能ならシャックとの対決、みてみたいです。

    • 今のリーグでは絶対無敵のセンターがいませんもんね。確かにあの巨体であれだけ走れるのはもう超人です。
      シャックvs.ウィルトはぜひ見てみたいですね。冥土の楽しみの一つです。

  • lakersfun

    面白い記事ばかりで毎回とても楽しみにしています。
    あの、NBA「の」圧巻だった、なら多分いいんでしょうけど、NBAを~した、なら席巻ではないでしょうか?
    動詞で使う場合でしたら席巻が適当ではないかと思います。間違っていたらごめんなさい。

    • lakersfunさんのおっしゃる通りです。「席巻」の間違いでした。
      ご指摘ありがとうございます。とても助かりました!

  • Pingback: NBA30チームのフランチャイズ最多得点記録: ウェスタンカンファレンス - Tuna Drama.com()

Back to Top ↑