デリック・ローズのシュート力ってどうなの?
2度に渡る膝への重症を乗り越え、今夏のFIBAワールドカップで公式戦復帰を果たしたブルズのデリック・ローズ。大会前にアメリカ代表監督のマイク・シャシェフスキーから「4年前よりも良くなっている」と太鼓判を押されたことで注目が集まったが、チームUSAの圧倒的な快進撃とは裏腹に、ローズのパフォーマンスは今ひとつ精彩を欠いていた。
ブランクが指摘されたのは主にシューティングだ。大会9試合を通して、ローズのフィールドゴール成功率はわずか25%。さらにスリーポイントの成功数は、(NBAよりも1m短いにもかかわらず)19本中たったの1本という始末だった。その結果、ローズに対してNBAアナリストやファンたちから一つの疑問が湧いた:
「もしかしてデリック・ローズってシュートが弱点?」
昔のローズを記憶している人ならわかると思うが、決してシュートが弱点の選手ではなかった。シュートが苦手どころか、数年前はリーグのガード陣でもトップクラスのジャンプシューターだったのだ。
シューティングが特に冴えわたっていたのは、デビュー2年目の2009-10シーズン。この年のローズは、驚異的なミドルレンジゲームを武器に高い確率でシュートを沈め、21歳にしてNBA屈指のスコアラーの一人と称されるようになる。
その頃のローズの必殺パターンは、鋭いドライブからバスケットをアタック、もしくはドライブを警戒して深く守るディフェンスの上から精度の高いプルアップ・ジャンプショット…。彼のシュート力とスピード、コートビジョン、バランス、そして優れた判断力のコンビネーションは、見る者を魅了するだけでなく、実質的にガードするのがほぼ不可能だった。
2009-10シーズンのショットチャートをみれば、ローズのミドルレンジがいかに優秀だったのかが良くわかる。
▼デリック・ローズ、2009-10ショットチャート
(緑=リーグ平均以上、黄色=平均、赤=平均以下)
数字は嘘をつかない。2009-10シーズン中に、ローズよりもミドルレンジシュートの本数が多かったプレーヤーは、コービー・ブライアント、ケビン・デュラント、ダーク・ノビツキーの3人のみ。ローズは47%の確率で中距離シュートを沈め、成功率でこの3人を上回った。
しかも同年に500本以上のミドルレンジ・アテンプトを記録した25選手のなかで、最も成功率が高かったのもローズ。これはもはや超エリートシューターの数字だ。
しかしその翌年の2010-11シーズンから、ローズのシューティングパターンは大きく変化する。
ミドルからロングへ
2009-10シーズンのローズは、シュートアテンプトの約58%が中距離のジャンプショットで、スリーポイントはシーズンを通してわずか60本しか打たなかった。だがその翌年の2010-11シーズンには、ミドルレンジの割合が34%にまで減少。その代わりにスリーの本数が385本にまで跳ね上がっている。
つまり得意だったミドルレンジをやや抑えて、苦手だったロングレンジを前年比で約6倍に増やしたわけだ。得点アプローチを大きくシフトさせようとしたのは明らかだが、一体なぜだろう?
2シーズンのシュートスポットを比較すると、その違いの大きさが一目瞭然だ。
(左=2009-10、右=2010-11)
確かに2010-11シーズンのローズは、前の年に比べて平均得点やスリーポイント成功率が上昇している。だがそれと引き換えに、ミドルレンジの成功率は47%から40%に大きく下落した。もはやこれではエリートのジャンプシューターとは言えない。
▼2シーズンでシューティングパターンに大きな変化
▼シーズン別スリーポイントアテンプト数の割合
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その後もミドルレンジシュートの精度は下降を続け、2011-12シーズンには成功率が39%にまで落ちている。ローズにとって十八番の一つだったジャンプショットは、2年間でごく平均的なものになり、2009-10シーズンのレベルまで再び回復することはなかった。
若いプレーヤーがキャリアと共にシュートの幅を広げていくのは珍しいことじゃない。だだ、デビュー2年目の時点でリーグトップクラスのミドルレンジゲームを展開していたにもかかわらず、どうしてローズはその翌年から突然スリーを連発するようになったのか?
最大の理由として、ブルズのシステムが大きく変わったことが考えられる。2010-11シーズンは、トム・ティボデューがヘッドコーチに就任し、FAでカルロス・ブーザーが加入した年だ。
ヴィニー・デル・ネグロHC時代のブルズはスリーポイントが極めて少ないチームだった。ローズがスリーを打ち始めたのは、ティボデューHCのオフェンス戦略か、あるいはブーザーとジョアキム・ノアにスペースを与えるため、外に広がらざるを得なかったのかもしれない。もしくは相手チームがローズのミドルレンジを何よりも警戒し始めたからか…。
どんな理由だったにせよ、FIBAでのパフォーマンスを見る限り、ローズは今後もアウトサイドゲームに力を入れていく模様。スペイン大会では、放ったシュートの約3分の1(59本中19本)がスリーポイントだった。問題は19本のトライで、たったの1本しか決められなかったことだ。
ローズはミドルレンジに戻るべき?
ローズのシュートレンジ拡大計画は、結果として彼のゲームや成長に足かせをはめる形になったのだろうか?現時点では何とも言えない。
だが確かなことが1つある。ローズが真価を発揮するのは、スリーポイントラインの内側で暴れまくるアタッカーになるときだ。特にブルズのような火力の低いチームは、ローズチックな爆発力を何よりも必要としている。
アウトサイドでスポットアップすればするほど、当然ながらインサイドでのプレーメイキング機会は減る。ガードにとってシュートレンジの広さは大切な要素の一つだ。しかし、ポイントガードがNBAで活躍する上で、必ずしも優れたスリーポイントシューターである必要はない。それは、スパーズのトニー・パーカーが長年に渡り実証してきた。
ローズと同じく、パーカーは類まれなスピードと技術を持ち合わせている。だがローズと違い、パーカーはロングレンジシュートを他のチームメイトに託し、自身が最も得意とするエリアでのプレーに専念し続けてきた。
確かにパーカーには、NBAで最も洗練されたスパーズのオフェンスシステムという恵まれた環境がある。しかし言い換えれば、そのシステムはパーカーを支柱の1つとして構築されてきたものだ。結局のところ、ポイントガードの習性がチームのオフェンススタイルに与える影響は極めて大きい。
ローズとパーカーは置かれた状況がまるで違う。だが、あまりパッとしないロングレンジゲーム、そして2009-10シーズンでの突出したミドルレンジゲームを考慮すると、ローズはもう少しスリーを控えて、アーク内でのプレーメイキングに集中するべきではないかと思ってしまう。
ローズは分析するのが難しい選手だ。ワールドカップでのパフォーマンスは決して満足のいくものではなかったが、19日間という短いスパンで、怪我することなく9試合を戦い抜けただけでも大きな収穫といえる。ローズが長期のブランクに苦戦していたのは明確で、通常シュートタッチは取り戻すのに最も時間がかかるパートだ。
24歳~25歳という選手として大切な成長期の大部分をリハビリに費やすことなってしまったローズだが、最近のプレーを見る限りでは、ほとんど身体能力に衰えはみえない。シュートの感さえ戻れば、リーグナンバー1のスコアリングガードに返り咲く可能性も十分すぎるほど残っている。
とにかく来季こそは怪我がないことを祈りたい。
Image via fiba.com
参考記事:「Grantland」