コービー・ブライアントのショートエッセイ『Zero』
2014年12月14日、コービー・ブライアントはキャリア通算得点でマイケル・ジョーダンを追い抜き、NBA歴代3位のスコアラーとなった。
以下は、ジョーダン超えを果たしたコービーが試合後に米スポーツコラム「The Players Tribune」に寄稿したショートエッセイ。コービーの競争者としての原点や現在の心境について綴られている。
『Zero』
ゼロ。この数字は、12歳の時に参加したフィラデルフィアの「ソニーヒル・フューチャーリーグ」で、ひと夏を通じて俺が記録した得点だ。俺は1度もスコア出来なかった。フリースローはゼロ、偶然のレイアップもゼロ。「ボールを投げたらうっかり入ってしまった」といったマグレさえなかった。
父のジョー・“ジェリービーン”・ブライアント、そして叔父のジョン・“チャビー”・コックスはかつてフューチャーリーグ出身のレジェンドだったんだ。父は208cmのポイント・フォワード、叔父は193cmのポイントガードとしてね。
俺は家族の顔に泥を塗ってしまった!
バスケットボールをやめてサッカーに専念しよう、なんて考えていたかもな。ジョーダンに対する尊敬と憧れが俺の中で確立されたのはその頃だった。ジョーダンが高校1年の時に学校のバスケットボールチームからカットされた経験があるという事実を俺は学んだ。ジョーダンが恥をかく気持ち、負け犬の気持ちを味わった人間だということを学んだ。ジョーダンはこれらの感情をエネルギーに変えた。己を磨き、決して諦めなかった。
そこで俺は彼と同じやり方で挑戦しようと決心したんだ。挫折を燃料にして闘争心の炎を燃やし続ける。「俺ならやれる」、そのことを家族たちに、そして何よりも自分自身に証明しようと夢中になった。
俺は取り憑かれてしまった。バスケットボールに関するあらゆる知識を勉強した。歴史や過去の選手たち、基礎…。俺の決意は、あの「ゼロの夏」を二度と繰り返さないようにすることだけではなかった。対戦相手にも俺と同じ挫折の感情を与えてやろうと燃えていたんだ。奴らが無意識に俺に挫折を与えたように。そうやって俺のスコアラーとしての闘争本能は生まれた。
そして24年後、俺はインスピレーションの原点を超えた。
なんという道のりだっただろう。この偉業を達成できて心から光栄だ。「時の翁」については百も承知している。奴は、「もう寝る時間だからベッドに入る前に歯を磨け」と俺に告げている。だがここで洗面所までゆっくりと時間をかけて歩いていかないようなら、俺は俺でなくなる。歯磨き粉を見つけられない芝居を打たなければ、俺は俺でなくなる。すべての歯を2回ずつ磨かなければ、舌を3回磨かなければ、俺は俺でなくなる。血が出るまで歯茎をフロスしないようなら、口の中が焼けて痺れるまでマウスウォッシュでうがいをしないようなら、俺は俺じゃない。
そうしなければ、俺はゼロから復活した少年にはなれなかった。そして、すべてに挑戦するよう俺にインスピレーションを与えてくれた男に敬意を表する機会もなかっただろう。
俺を愛し支えてくれたみんなにお礼を言いたい。本当に感謝している。俺の中の悪役の魂がそのことを認めようとしないときもあるけどね。
たくさんの愛をこめて
以上、マンバより
Thumbnail by Keith Allison/Flickr
ソース:「Zero by Kobe Bryant」