ジミー・バトラーの76ers移籍について
今季イーストの覇権争いがさらに激化することになりそうだ。
ESPNによると、NBAでは現地11月10日、フィラデルフィア・76ersとミネソタ・ティンバーウルブズが大型トレードで合意。シクサーズはロバート・コビントン、ダリオ・シャリッチ、ジェリッド・ベイレスの3選手と2022年のドラフト2巡目指名権を放出し、ウルブズからジミー・バトラーとジャスティン・パットンを獲得する。
今季のバトラーは、10試合で21.3得点、5.2リバウンド、4.3アシスト、FG成功率47.1%を平均。昨季はウルブズを14年ぶりのプレイオフへと導いてヒーローとなったが、今季トレーニングキャンプが始まる前に突然チームを離れたいと明言し、その後もメディアを通して何度もトレードを要求。試合で手抜きプレイをするという形での反抗こそなかったものの、練習でチームメイトやGMに暴言を吐いたりするなど、チームにとって頭痛の種の一つとなっていた。
今回のトレード合意が報じられる直前にも、バトラーは前日のキングス戦で41分プレイしたことについて、「いい加減にしてほしい。チームには他に14人もいるだろ」とFワードを用いながらトム・シボドーHCの采配を厳しく批判したばかりだ。
シボドーHCとしては、バトラーをチームに残したまま今シーズンを戦い抜きたかったようだが、開幕4勝9敗という散々な結果を受け(ロードが0勝5敗)、バトラーがどれだけ優秀な選手でも今の状況はチームにとってマイナスにしかならないと判断したのだろう。
なおESPNによれば、トレードが正式に成立するのは現地12日で、バトラーの新チームデビューはその2日後のオーランド・マジック戦になると見られている。
76ersはビッグスリー結成
今回のトレードにより、もともとイースト上位チームだったシクサーズのポテンシャルがさらに高まった。
オフェンス面でどのようにフィットするかはさておき、タレントレベルで言えば、ジョエル・エンビード/ベン・シモンズ/バトラーのビッグスリーは間違いなくNBAトップクラス。すでにリーグ上位を誇るシクサーズの守備はさらに強化されることになるだろう。
放出したロバート・コビントンは、極めて優秀なディフェンダーであり、ヘルプディフェンスの能力だけを見ると、もしかするとバトラーより上かもしれない。ただオンボールの守備で苦戦することが度々あり(特に昨季プレイオフ)、その点、バトラーはリーグ屈指の1on1ディフェンダーだ。
ラプターズのカワイ・レナードとカイル・ラウリー、バックスのヤニス・アデトクンボとクリス・ミドルトン、セルティックスのカイリー・アービングとゴードン・ヘイワード(ジェイソン・テイタム)といった具合に、イーストの上位チームはいずれもウィングポジションにオールスターレベルの選手を2人抱えている。シクサーズはバトラーを獲得したことで、過剰なダブルチームを仕掛けずとも、ライバルチームのエースたちに対応できるようになった。
1番から4番までスイッチ可能なバトラーとシモンズが相手のスコアラーをマークしつつ、ペリメーターの守備を固め、エンビードがリムを守る。考えただけで恐ろしい布陣だ。
また、オンボールのショットクリエイターが不足していたシクサーズにとって、アイソレーションとプレイメイクも得意なバトラーの加入は心強い。シモンズがベンチに下がった時間帯など、バトラーとエンビードのピック&ロールは強力な武器になるだろう。
今回のトレードにおけるマイナス面を挙げるとすれば、チームで2番目に優秀な3Pシューターだったコビントンを放出したことで、ただでさえ窮屈だったシクサーズのフロアスペーシングがより悪化してしまうこと。エンビードへのダブルチームが、今まで以上に厳しくなる可能性がある。さらにシクサーズはベンチの層が薄いので、そこに出場時間30分以上を平均していた主力2選手がいなくなるのはかなり痛い。
細かな不安要素はいくつかあるものの、オールNBAクラスで勝負所に強いあのジミー・バトラーが加入だ。ベンチの弱さに関しては、シーズン終盤のバイアウト・マーケットである程度の補強が可能。あるいは、マーケル・フルツと一緒にドラフト指名権を放出し(ヒートの2021年1巡目指名権が魅力的)、トレードで優秀なシューターを引っ張ってくるのも一つの手段だ。
いずれにせよ、シクサーズがイースト制覇にまた一歩近づいたのは間違いない。
▼バトラーはリーグ屈指のオールラウンダー
なおESPNによれば、76ersとバトラーは今夏に長期の再契約を結ぶ方向で考えが一致しているとのこと。(バトラーが最終年オプションを破棄するまで契約交渉はできないので、確実ではないが…)。シクサーズはバトラーのバード権利を保有することになるので、他のチームなら最大で4年/1億4100万ドルのところ、シクサーズは5年/1億9000万ドルのマックス契約をオファーできる。
来季開幕時で30歳になるバトラーと5年のマックス契約を結ぶのは、かなりのリスクがある。最終的に35歳のウィング選手に約4000万ドルの年俸を支払うことになるわけだ。
シクサーズとしては、コビントンとシャリッチを手放すことなく、来夏FAでケビン・デュラントやカワイ・レナード、クレイ・トンプソンら超大物の獲得を狙う選択肢もあった。エンビードとシモンズの良さを最大限に引き出すなら、3人目のスター選手はクレイ・トンプソンが理想的だと思う。
ただ来夏は、キャップスペースに余裕のあるチームが多く、シクサーズがスター争奪戦で空振りに終わる可能性も高かった。そうなると、スター以外の選手にオーバーペイせざるを得ない状況に陥るリスクすらあったので、来夏にバトラーとの再契約を成立させられれば、今回のトレードは大勝利だったといえるだろう。
一方で、ウルブズにとっても決して悪くないトレードだったと思う。コビントンは、守備とアウトサイドショットに強い3&Dプレイヤーで、ウルブズがずっと必要としていたタイプの選手(しかも年俸1000万ドルで残り3年の格安契約!)。シャリッチは、カール・アンソニー・タウンズとフロントコートを組ませた場合、守備面がやや不安だが、得点力は抜群なはずだ。そして何よりも、コーチや選手たち(特にカール・アンソニー・タウンズ)がようやく試合に100%集中できるようになる。
ザック・ラビーン、クリス・ダン、2017年ドラフト7位指名権(ラウリ・マルカネン)が、1年後にコビントンとシャリッチに変わった。そう考えると、少し物足りない気もするが、そもそもバトラーがいなければ14年ぶりのプレイオフ進出を達成することも恐らくなかったので、ウルブズにとって1年前のブルズとのトレードは正解だったと言えるだろう。
参考記事:「ESPN」