クリスタプス・ポルジンギスのマブス移籍について
2018年ドラフトで次期フランチャイズプレイヤーを手にしたマブスが、ハイリスク・ハイリターンな大勝負に打って出た。
NBAでは現地1月31日、ダラス・マーベリックスとニューヨーク・ニックスの間で7選手を含む大型トレードが成立。マブスはディアンドレ・ジョーダン、ウェスリー・マシューズ、デニス・スミスJr.の3選手とドラフト1巡目指名権2つを放出し、ニックスからクリスタプス・ポルジンギス、ティム・ハーダウェイJr.、トレイ・バーク、コートニー・リーの4選手を獲得した。
今回のトレードの目玉は、何といってもポルジンギス。ニックスが次世代のスターとしてファンから絶大な支持を得ていた“ユニコーン”を、これほど早く手放すことになるなんて、誰に想像できただろう。
https://twitter.com/NBAonTNT/status/1091086609695559680
2015年ドラフト全体4位指名のポルジンギスは、ニックスでの3シーズンで17.8得点、7.1リバウンドを平均。
3年目の昨季は平均22.7得点、6.6リバウンド、2.4ブロックと大ブレイクして2018オールスターのリザーブ入りを果たすも、シーズン中盤に左ひざの前十字靭帯断裂の重傷を負って戦線離脱し、怪我から1年経った現在も復帰時期は明らかになっていない。
ニックスは2019FAにオールイン
選手のタレントレベルだけに注目すると、マブスの1人勝ちのようにも見える今回のトレード。正直なところ、最初にニュースが報じられた時は「ニックスがついに狂ったか…」と思った。ただ間もなくトレードの詳細が明らかになり、サラリーやドラフト指名権の移動を考慮すると、ニックスにとって悪くない取引だったように感じる。
まず今回のトレードにより、ニックスはハーダウェイJr.とコートニー・リーの契約(来季に約3000万ドル)を処分し、来季に向けた大幅なサラリー削減に成功。代わりにマブスから獲得したジョーダンとマシューズは今季限りで契約終了なので、これでニックスは2019のフリーエージェンシーで2選手にマックスサラリーをオファーできるだけのキャップスペースを獲得した。
ESPNによると、トレードが成立する数時間前、ポルジンギスはニックスのフロントオフィスと面談し、チームの方向性に不満を持っていることを伝えた模様。ミーティングはわずか5分ほどだったらしいが、そこでニックスはポルジンギスがトレードを望んでいるような印象を受けたという。
ニックスがようやくドラフトで手にしたフランチャイズレベルの選手と良好な関係を築けなかったのは非常に残念。ただポルジンギスが将来的な退団を望んだ以上、ニックスにはあまり選択肢がなかった。
ポルジンギスは今夏に制限付きFAとなる。他のチームからマックスサラリーもしくはそれに近いオファーが出るだろう。そこでニックスが2+1(3年契約で3年目がプレイヤーオプション)のオファーシートにマッチしたとする。
するとニックスは、最初の1年間はポルジンギスをトレード放出できなくなり、2020-21シーズンが始まる時にポルジンギスの契約は実質残り1年。その時点までに関係を修復できなければ、ポルジンギスが2021年夏にオプションを破棄して制限なしFAになる可能性が高い。
またESPNによれば、ポルジンギスは今夏にクオリファイングオファーにサインし、2020年に制限なしFAになる考えも持っていたとのこと。そうなればニックスにとっては最悪のシナリオ。何の見返りもなしにポルジンギスを失うところだった。
とにかくニックスは、ポルジンギスの夢を諦めて180度方向転換し、一からチームを再建する決断をした。
ハーダウェイJr.(+リー)のサラリーは、本来ならばドラフト指名権を付帯してようやく手放せるような契約だ。それを、コンディションが不透明で、いずれ決別する可能性の高かったポルジンギスと交換で引き取ってもらい、その上ドラフト1巡目指名権2つとデニス・スミスJr.を獲得できたのは大きい。
ニックスの置かれていた状況を考えると、十分な見返りを得られたトレードだと思う。
報道によれば、ニックスがマブスから獲得した指名権は、1つが2021年の1巡目指名権(条件なし)で、もう一つがトップ10保護付きの2023年1巡目指名権。特に2021年の1巡目指名権は、今季マブスの成績とロッタリー運次第(上位5位に入れば)で、高校からのエントリーが再び解禁される2022年ドラフトに持ち越されるかもしれないので、極めて価値の高いアセットに化ける可能性もある。
ニックスが描くドリームシナリオは、今夏FAでケビン・デュラントとカイリー・アービングのスーパースター2人を迎え入れること。そして今シーズンはこのまま下位を維持し、2019年ドラフトの全体1位指名権(ザイオン・ウィリアムズ)を獲得することだ。もしこれが実現すれば、イースト上位を狙える強豪チームとなり、ニックスは90年代の輝きを取り戻せるかもしれない。
もし今夏のFAが空振りに終わったとしても、上手く運用すればキャップスペースは残るので、2020年夏のフリーエージェンシーに希望をつなげられる(ただ2020年は今年ほど魅力的なFAがいないので、今夏はせめて1人だけでもスター選手を獲得しておきたいところだが…)。
なお、ニックスとポルジンギスの関係がここまで悪化した原因については不明。一部のアナリストの間では、今季中の復帰を目指すポルジンギスに対して、最後までタンキングを続けたいニックスがノーを出したのではという憶測も飛び交っている。トレード合意が報じられた直後、ポルジンギスはインスタグラムのストーリーで「いつか真実が明らかになる」という意味深なコメントを残している。
トレードの前日、ニックスとマブスはMSGで対戦。ドンチッチとポルジンギスは笑顔で握手を交わしていた。
https://twitter.com/kporzee/status/1091146309120286724
マブスもリスク大
今回のトレードは、2人目の若手スターを獲得したマブスにとってもリスクのある賭けだ。
やはり最大の不安要素は、ACL断裂から復帰するポルジンギスのコンディション。アキレス腱断裂ほど致命的な怪我ではないにせよ、これまでに何人もの選手を潰してきた厄介な怪我だ。ポルジンギスはまだ23歳と若く、ザック・ラビーンと同じように完全復活する可能性も高いとは思うが、もともと怪我の多い選手なだけに心配になる。
マブスオーナーのマーク・キューバンがESPNに伝えたとされるコメントによると、ポルジンギスは移籍後もこのままシーズンを全休し、膝の回復に専念することになりそうだという。
マブスにとっては、ポルジンギスと長期契約を結べるかどうかも懸念の一つ。ポルジンギスと親しいダーク・ノビツキーやルカ・ドンチッチがいるマブスは再契約に自信を持っているようだが、「ポルジンギスはクオリファイングオファーも検討している」といった報道も出ているため、1年のレンタルに終わる可能性もゼロではない。
もし制限付きFAのポルジンギスが今夏にクオリファイングオファーにサインすれば、2020年に制限無しのFAとなる。その場合、来季のポルジンギスは2000万ドル以上の大幅なサラリーカットを受け入れなければならない。
オールスタークラスの選手がクオリファイングオファーを選ぶというのは前例がなく、特に1シーズンのブランクがあるポルジンギスにとってはリスクが高すぎるため、その選択肢を取る可能性は極めて低いだろう。
またマブスは、ハーダウェイJr.とリーの契約を引き受けたことで、今のままでは2019-20シーズンのキャップスペースにほとんど余裕がなく、今夏FAでの戦力補強が難しい状況。さらにドンチッチのトレードでアトランタ・ホークスに2019年のドラフト1巡目指名権(トップ5保護)を譲渡しているため、少なくとも今後6年間は2年に1度しか1巡目のドラフトに参加できなくなる。
ちなみにトレードデッドラインまでにハリソン・バーンズ(来季2500万ドルのオプション)とドワイト・パウエル(来季1000万ドルのオプション)をサラリーダンプすれば、今オフに向けてキャップスペースを確保することも可能。『Dallas Morning News』のBrad Townsend記者によれば、マブスは今夏FAでセンターのニコラ・ブーチェビッチ獲得に動くかもしれないという(チーム・ビッグユーロ!!)。
https://twitter.com/BleacherReport/status/1091091884305309696
いろいろと不安要素はあるものの、すべてが上手くいけばマブスの可能性は無限大。レジェンドのダーク・ノビツキーは今回のトレードについて、こんなコメントを残した:
「ポルジンギスのようなフランチャイズスターレベルの選手を獲得するチャンスがあるなら、やるしかない」
まったくその通りだと思う。
もしポルジンギスが完全復活し、マブスと長期契約が成立すれば、将来性の面で76ersのエンビード&シモンズやナゲッツのヨキッチ&マレーにも匹敵するリーグ屈指の若手デュオの誕生だ。
プレイスタイル的にも、パスセンスに優れたオールラウンドフォワードのドンチッチと、アウトサイドに強いストレッチビッグのポルジンギスは相性が抜群なはず。この2人を軸にして、優秀なサポーティングキャストを集めることができれば、3~4年後に優勝を狙えるチームに返り咲くのも夢じゃない。
参考記事:「ESPN」