NBAからホームコートアドバンテージが消滅しつつある?
どんなスポーツでも本拠地や地元での試合は有利だとされている。遠征での移動疲れもなければ、試合前日の夜を慣れないホテルの部屋で過ごすストレスもない。審判の判定がややホームチーム有利に傾くこともたまにはあるだろう。
何よりも、地元ファンたちからの熱い声援を浴びれば、選手たちの士気が格段に上がる。NBAで長いレギュラーシーズンを必死に戦う最大の理由の一つは、プレイオフのシード順位を上げて、ホームでの試合数を多くするためだ。
ホームコートアドバンテージは確実に存在する。だが近年のNBAでは、昔に比べてホームゲームの有利性が徐々に無くなりつつあるという。
1月終了時の順位表を確認すると、ヒートやブルズ、マブスなどのチームは、ホームよりもアウェイでの勝利数が多い。実際に今シーズンは、ホームチームの平均勝率が53.7%となっている(1月末時点)。これは過去40年間のリーグで最も低い数字だ。
▼1974年~2015年のホームチーム勝率推移
メモ:
- 1976-77シーズンのホームチーム勝率は68.5%。2002-03シーズンは62.8%だった。 それがここ4シーズンでは、61.2%から過去最低の53.7%に急落している。
- 特にここ2年で、ホームコートアドバンテージの価値は大きく減少した。ポイントに置き換えると、今季のホームチームの得失点マージンは「+2.2」。昨季は「+2.6」、2012-13シーズンは「+3.2」だった。
- この傾向はポストシーズンにも表れている。昨季プレイオフにおけるホームチームの勝率は56.2%(50勝39敗)。過去のプレイオフ平均水準である65%と比べて著しく低い。また昨季プレイオフのホームチーム得失点マージンは「+2.8」だった。2013年の「+4.0」、2012年の「+4.7」から順調に落ちている。2008年のマージン「+8.1」、勝率74.4%に比べると大下落だ。ペースをアジャストして換算すると、昨季プレイオフのホームコートアドバンテージは、セルティックスが優勝した2008年と比較して3分の1しかない(+9.0 vs. +3.0)。
- 最も驚きなのが、今季は接戦になるとホームチームの勝率が5割を下回るというデータだ。「残り時間5分、5点差以内」という僅差の状況からホームチームが勝利を収めたのはわずか47.7%(354試合中169試合)となっている。1997年~2014年のホームチーム接戦平均勝率は54.7%。これまでに51.6%を下回ったことは1度もなかった。今季はNBA史上初めてホームチームが接戦で負け越しているシーズンなのだ。
- 今季は10チームがホームよりもアウェイで好成績を収めている(1月末時点)。1997-98から2000-01の4シーズンでは、そんなチームは1つも存在しなかった。さらに過去8シーズンをみても、アウェイの方が好成績というチームは合計で10チームしかない。
ホームコートアドバンテージの下降トレンドは確実に数字になって表れている。しかし一体何が原因なのか?
今のところその明確な答えは誰にもわかっていないが、リーグ関係者たちの間ではいくつかの仮説が立てられている。
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仮説1: スリーポイント数の増加と審判の影響力低下
NBAのプレースタイルは一昔前と比べて著しく変化した。スリーポイントシュートの重要性が飛躍的に増し、オフェンスは年々アウトサイドへと広がる一方だ。
事実、1980-81シーズンには1試合平均2.7本だった3Pアテンプト数が、2013-14シーズンには約8倍の21.5本にまで増加。今季はフィールドゴール試投数の4分の1以上(26.7%)を3ポイントが占めている。
▼スリーポイントアテンプト数のリーグ平均(1980~2014)
このトレンドと反比例するように、フリースローの本数は徐々に減少している。
▼フリースローアテンプト数のリーグ平均(1980~2014)
2015年1月には、ついにNBA史上初めて1試合平均のスリーポイントアテンプト数(45本)がフリースローアテンプト数(44.7本)を上回った。
ノーマークのアウトサイトショットが増えれば増えるほど接触プレーは少なくなり、ファウルコールの回数は減る。そうなれば、審判の判定が勝敗に及ぼす影響も自然と減少するのかもしれない。やはり審判も人間だ。公平にジャッジしているつもりでも無意識に観客の声援やヤジに乗せられて、地元びいきの笛を鳴らしてしまうこともあるだろう。
仮説2: テクノロジーの進歩と遠征環境の向上
ダラス・マーベリックスのオーナー、マーク・キューバンはESPNの取材で次のように語った:
「チームは遠征時の習慣について利口になり、ちゃんと休息をとるようになっている。プレーヤーたちも昔のように夜遊びをしない。だからアウェイ戦は以前ほど厳しいものではなくなった」
テクノロジーの進歩により遠征時の負担が減ったとする意見がある。近年のチームは、最新のスポーツサイエンスを活用して選手たちの消耗を最小限に減らし、同時に休息の大切さを促すようになった。バイオメトリクス。効果的なエクササイズや理想の食事習慣に関する知識などは、昔と比べてはるかに豊富だ。現在では、まるで高性能機械を扱うかのごとく徹底して自らの体調管理に努める選手が増えてきたという。
ビデオスカウティング技術の進歩こそが最も大きな違いだとする声もある。例えば、ロサンゼルス・クリッパーズのクリス・ポールなどは、暇さえあればSynergy Sports(シナジー・スポーツ)にログインしているらしい。(※Synergy Sportsとは、プロ・アマバスケットボールの映像やスタッツをオンラインで提供するサービス)
選手やコーチングスタッフは、クリック1つで何百パターンにも及ぶピック&ロール映像にアクセスし、遠征時の飛行機からでも敵チームの分析が十分にできるようになった。10年前には存在しなかったツールだ。ましてや一昔前のVCR時代は、ホームチームだけが対戦相手のスカウティングをフルに行える環境だった。
また、ホームコートアドバンテージの長期的な減少傾向は、移動手段の改善と大きく関連しているという見方も少なくない。以前はどの球団も一般の民間機を利用していたが、NBAの人気が爆発的に高まり始めた1980年代後半から90年代前半にかけて、チーム専用機やチャーター機が主流となった。選手たちにとっては、心身ともに大きな負担軽減となったことだろう。
そのおかげもあってか、ホームチームの勝率は1987-88シーズンの67.9%から少しずつ傾き、1994-95シーズンには57.5%まで落ちた。これではここ数年の下降トレンドの説明がつかないが、90年代に大きく減少した原因の一つだと言えるかもしれない。
仮説3: 観客が「シックスマン」じゃなくなった
ファンのあり方が変わったとするアナリストもいる。観客が昔ほど試合に夢中じゃない…。その原因の一つとして、米スポーツメディア「Grantland」のビル・シモンズ氏は、インターネット普及によりチケットの売買が簡単になった点を指摘している。
シーズンチケット購入者たちにとって、昔はレギュラーシーズン試合のチケットを処理するのが一苦労だった。買い手を探すための手段がほとんどなかったため、チケットを無駄にしないように自らが可能な限り試合に足を運ぼうとする。それが現在では、さまざまなオンラインサービスを利用して、個人的にチケットを売却するのが比較的容易だ。
それによって、シーズンチケット所有者のような熱狂的なファンがレギュラーシーズンゲームに顔を出す頻度が昔よりも少なくなり、反対にカジュアルなファンや敵チームのサポーターがチケットを手に入れやすい環境となった。シモンズ氏いわく、昨年11月にブルズがクリッパーズの本拠地を訪れた際は、ブルズファンの声援の方が大きいような状態だったらしく、そのことでクリス・ポールが気分を害していたという。
他にも、観客席でスマートフォンを片手にうつむくファンの姿が目立つようになったとする意見もある。悲しいことだがそれも一理あるかもしれない。
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ホームコートアドバンテージ衰退の原因が何なのか正確にはわからない。だがデータには確実に表れている。これをフェアになったと考えるべきか、あるいはNBAの醍醐味の一つが消滅しつつあると捉えるべきか…。
Thumbnail by Adam Pieniazek/Flickr
参考記事:「ESPN」