セルティックス優勝メンバー、「アイザイアのトリビュートビデオ」をめぐり苦言
アイザイア・トーマスのトリビュートビデオを「ポール・ピアースの日」に上映すべきか否かについて、NBA関係者たちの間でちょっとした論争が起こっている。
そもそもボストン・セルティックスは、現地1月3日に本拠地TDガーデンで行われたクリーブランド・キャバリアーズ戦で、トレード移籍後初の古巣凱旋となるトーマスのためにトリビュート映像を流す計画を立てていた。だがトーマスは、その試合を欠場することが決まっていたため、事前にトリビュートを延期してほしいとセルティックスにリクエスト。それならば次にキャブスがボストンを訪れる2月11日にやればいいという話だが、そこで大きな問題が一つ。ちょうどその日は、ポール・ピアースの永久欠番式が執り行われる日なのだ。
通常、選手へのトリビュートビデオは、試合前もしくは第1Qのタイムアウト中に1~2分間ほど上映される程度。一方で、ピアースの永久欠番式典は試合後に予定されている。なので同じ日に行ってもそれほど影響なさそうな気もするが、当人のピアースは、どんな些細な形でも、輝かしいキャリアの集大成の一つともいえる夜を邪魔されたくないらしい。セルティックス球団社長のダニー・エインジと直接話し合い、トーマスと記念日をシャアするプランに「ノー」を突きつけてきたという。
「ダニー(エインジ社長)と40分ほど話し合った。彼は(トーマスへのトリビュートに関する)計画を教えてくれた。そして最後に、『もし君が不満に思うのであれば、アイザイアの件はなしにする』と言ってくれた。そこで私は『絶対にやめてほしい』と答えた。そこで話は終わった」
「彼(トーマス)には栄誉を受けるチャンスがあった。プレイするしないにしても、ボストンを訪れていたんだ。そこでトリビュートを受けるべきだった。ある選手の永久欠番式で、他の選手のトリビュートを流すなどというのは考えられない」
「ダニーは私を説得しようとした。だが私はこう言ってやった、『いいかいダニー、彼は自らチャンスを棒に振ったんだ。彼の言いなりじゃないか』とね。セルティックスがトーマスへのトリビュートをやろうとしている理由は、トレード放出したことについて申し訳なく思っているから、罪悪感があるからだ」
– ポール・ピアース
2014-15シーズン終盤にトレードでサンズからセルティックスに移籍したトーマスは、リードスコアラーとして想像をはるかに上回る躍進を遂げ、チームの3年連続プレイオフ進出に大貢献。2016-17シーズンには球団史上最多2位となる28.9得点を平均した。
2017年のプレイオフでは、股関節の怪我に加えて、最愛の妹を交通事故で亡くすという不幸に見舞われながらも、チームを離れることなく全力でプレイし、セルティックスを5年ぶりのカンファレンスファイナルへと牽引。さらにオフシーズンには、ゴードン・ヘイワードの勧誘に誰よりも尽力し、最後はカイリー・アービング獲得のキーピースとなった。在籍した期間は2年半と短かったが、セルティックス再興の立役者の一人だったのは疑う余地もなく、トリビュートを受けるに相応しい功績を残している。
▼ITの2016-17ハイライト
なおピアースの気持ちを知ったトーマスは、トリビュートビデオの辞退を再びセルティックスに申し出ており、2月11日はビデオ上映なしという方向で決着がついた。
https://twitter.com/isaiahthomas/status/953427146114043905
「僕がボストンに在籍した3年間を祝福するために、2月11日にトリビュートを計画してくれたセルティックスに感謝したい。ただその日は、ポール・ピアースの永久欠番式ということもあり、一部で物議をかもしているようだ。なのでセルティックスには、背番号34番のキャリアを讃えることだけに集中してもらいたい」
– アイザイア・トーマス
この件に関しては、関係者やファンたちの間で意見が割れた。海外のSNSやネット掲示板を見ると、ピアースに対して批判的な声が多い。「タイムアウト中にたかが1~2分の映像を流すくらい何の問題もないだろう」と。2000年のMIPに輝いた元ペイサーズのジェイレン・ローズも、ESPNの番組でピアースと共演した際に「器が小さい」と面と向かって咎めた。
「ポール、君は僕のブラザーだ。愛してるよ。だが試合が行われる48分間では様々な種類の情報がアナウンスされるはずだ。そのうちの一つがアイザイア・トーマスのトリビュートビデオでも問題ないだろう。そうしたからといって、君の夜が台無しになるわけじゃない」
– ジェイレン・ローズ
元セルティックスたちは不満
その一方で、「トーマスは前の試合でトリビュートを受けるべきだった」「ピアースの永久欠番式でやるのはありえない」といった声もたくさん出ている。特に2008年のチャンピオンシップチームにいた元セルティックスのチームメイトたちは、ピアースを強く擁護しており、トニー・アレンは「なぜ同じ日にやる必要がある?」と問いかけた。
「僕はピアースの意見に賛成だ。トーマスはピアースほどチームに貢献していない。ピアースはセルティックスに尽くしてきた。同じ日にトーマスを讃える必要がどこにあるんだ?」
「ピアースには心の底から永久欠番の日を楽しんでほしいんだ。彼はこの球団のために大量の血と汗と涙を流してきた。そして結果を残した。苦しい時期もあったよ。彼と一緒に19連敗した時のことを覚えている。だがそこからチームを好転させ、チャンピオンシップを勝ち取ったんだ。永久欠番の日はポール・ピアースについて語るべきで、同じレベルに立てていないトーマスの名前を挙げるべきじゃない」
– トニー・アレン
アレンと同じくピアースと共に優勝を経験したラジョン・ロンドは、さらに厳しい意見を持っている。記者から「トリビュートビデオ」の件について尋ねられた際には、「一体トーマスが何を成し遂げた?」と疑問を呈し、チームをカンファレンス首位に導いたことを指摘されると、「今のセルティックスはそんなことでも祝うのか?」とロンドらしいコメントを残している。
「ボストン・セルティックスだ。フェニックス・サンズとは違う。他の球団をディスリスペクトするつもりはないが、セルティックスはカンファレンスのバナーをスタジアムに掲げたりしない」
– ラジョン・ロンド
またピアースは、必要以上の波紋を呼んだ今回の件について、家族やエージェント、そして盟友のケビン・ガーネットにも相談したとのこと。するとガーネットからは、「アイザイア?誰?お前が永久欠番の日を奴とシェアしないなんて当たり前だろ」と励まされたという。
トーマスのトリビュートビデオをめぐる騒動については誰も悪くない。
確かにピアースが妥協して、トーマスのために試合前半の1~2分を与えれば、すべて丸く収まっただろう。だが無理に器が大きい振りなどをせず、正直に「自分だけの夜にしたい」と訴えたところは人間味があってむしろ好感が持てる。長年球団に尽くしたピアースには、少しくらいわがままを言う権利があるはずだ。
あるいは、もしトーマスが1月3日のボストン凱旋でトリビュートを受け入れていれば、こんなことにはならなかったのも事実。ただトーマスにしてみれば、トリビュートの試合では家族にプレイする姿を見せたいという気持ちがあり、それだけセルティックスに対する思い入れが強いのだろう。そもそも、最初にトリビュートの延期をリクエストした時は、次の対戦がピアースの永久欠番式の日と被ることを知らなかったらしい。
いずれにせよ、こんなことでピアースがファンたちから「小物」と馬鹿にされたり、トーマスがセルティックスの先輩たちから軽くディスられる形になったのは少し残念だ。
Image by Keith Allison
参考記事:「ESPN」