オフェンス10:ディフェンス0の常識外れなラン&ガン、米グリネル大の「The System」
アメリカ中西部のアイオワ州に「グリネル・カレッジ」という大学がある。1846年に設立されたリベラルアーツ・カレッジの名門だが、2012年に同大学のバスケットボールチーム(NCAA3部リーグ)に所属していたジャック・テイラーという選手が1試合138得点を記録したことで大きな話題になった。
グリネル大は「The System」と呼ばれる極めて独特なオフェンスシステムを採用している。とにかくスリーポイントシュートを打ちまくり、点を取られても気にしない。バスケットボールコーチングの理想を根本から否定するような超アップテンポなラン&ガンだ。
「The System」の基本概念は以下の通り:
- 最初のショットがベストショット。レイアップよりもスリーを優先
- 可能な限りスリーを打ちまくる
- シューター以外の4人はオフェンスリバウンドを取りにいく
- オフェンスリバウンドを取った際は、プットバックせずに再びスリーポイントシューターにボールを戻す
- 得点を決めた際はただちにフルコートプレス
- ディフェンス面では、相手に24秒ボールを持たせるよりもフリーのレイアップを与えろ
- ボールマンには常にダブルチーム
常にフルコートプレスであたって相手のターンオーバーを誘発。相手のターンオーバーが増えれば、チームのオフェンスポゼッションが多くなり、当然ながらシュートの本数も多くなる。仮にプレスを突破されても、ボールが最短時間で戻ってくるので問題なし。スリーポイントはツーポイントよりも得点が高い。だからスリーを打ちまくる。シュートの成功率は低くなるが、たくさん打てばいいだけだ!
このハイテンポな戦術を40分間続けるために、グリネル大はロスターを3つのグループに分け、60秒~90秒のペースで選手5人の総メンバーチェンジを行う。まるでアイスホッケーのように…。1人の選手が20分以上出場することは滅多にない。
はっきり言って無茶苦茶なバスケだ。しかし1989年にこのシステムを採用して以来、グリネル大は27年間負け越していた超弱小チームから一転。2012年までに5度のカンファレンス優勝、11回のポストシーズン進出を果たし、過去20シーズン中18シーズンで全米大学バスケの最多得点チームとなった。
138得点
ジャック・テイラーが138得点を獲得してNCAAの記録を塗りかえたのは2012年11月20日。グリネル大対フェイス・バプテスト・バイブル大の試合だった。
この日のテイラーは36分の出場時間で108本中52本のフィールドゴールを成功させ、3ポイントは71本中27本。スリーだけで71本!ウィルト・チェンバレンが100得点を記録した時はシュート本数が63本だった。
▼138得点ゲームのハイライト
▼スタッツシート
ファイナルスコアは179対104でグリネル大の圧勝。試合内容はとても競争と呼べるものではなく、特に終盤のガベージタイムは相手がかわいそうになるほどだ。テイラーはディフェンスサイドに戻ることさえしなかった。
▼終盤の攻防(※音量注意)
この記録には多くの批判が集まった。メディアからは「バスケットボールへの冒涜」「中身のない記録」との厳しい意見もあがったほどだ。
だが当の本人たちはネガティブな意見をまったく気にかけていない様子。The Systemを生み出したグリネル大のDave Arseneaultヘッドコーチは、「勝利よりも楽しむことが大切」というモットーを掲げている。
参考記事:「Yahoo!Sports」