ロケッツがハーデンMVP獲得に向けて猛プッシュ、今季MVPの行方は?
今季のMVPレースは、すでにステファン・カリーとジェイムス・ハーデンの2人に絞られた印象だ。そして現時点ではカリーが優勢だろうとする見方が多い。だがヒューストン・ロケッツはハーデンにチャンスがあると信じている。
ロケッツは先日、MVP選出の投票権を持つスポーツライターやメディア関係者らにオリジナルのビデオブックを送付した。ハーデンMVP獲得に向けたキャンペーン活動だ。
ロケッツのビデオブックには、いかにハーデンが今季最優秀選手にふさわしいかがイラストレートされている。
右のページにはビデオ、左のページにはハーデンのスタッツが記載されたパンフレットが差し込まれている。
上から:
- シーズン通算1988得点 – 300点以上の差でリーグ首位(2位カリー、3位ジェイムス)
- 40得点ゲームが8回 – リーグ最多
- プレーヤー・オブ・ザ・マンスを2回受賞
- 30得点ゲームが32回 – リーグ最多
- 取得可能なディフェンシブリバウンド全体の14.6%を確保 – SGポジションでリーグ首位
さらにハーデンがリーグ上位に位置するスタッツを記載。ちょっと見慣れないような指標もいくつか並んでいる。
左上から行順に:
- 通算出場時間がリーグ首位 – 2619分
- ウィンシェアがリーグ首位 – 14.8
- VoRPがリーグ首位 – 7.0
- ダブルダブル数がSGポジションでリーグ首位 – 19回
- オフェンシブ・ウィンシェアがリーグ首位 – 10.9
- 通算アシスト数がSGポジションでリーグ首位 – 510
- 通算リバウンド数がSGポジションでリーグ首位 – 417
- フリースロー成功数がリーグ首位 – 640
- フリースローアテンプト数がリーグ首位 – 739
- 通算スティール数がSGポジションでリーグ首位 – 140
- 1試合の平均出場時間がリーグ2位 – 36.9分
- 通算ブロック数がガードポジションでリーグ3位 – 56
- 通算スティール数がリーグ2位 – 140
- 通算アシスト数がリーグ5位 – 510
- 平均スティールがリーグ6位 – 1.9
※このパンフレットは少し前に作られたものなので、現在はアシストやスティールの順位が変わっている。
裏表紙:
どうやらロケッツは、このビデオブックをMVP投票者124人全員に送った様子。なかなか手の込んだ「清き一票を!」キャンペーンだが、果たしてどれほどの効果があるのか?何名かのスポーツライターたちは、ロケッツの取り組みに関してやや否定的な意見を示している。
・米Grantlandのザック・ロウ氏:
「アワードプロモーション用のくだらない小物にお金をかけることに関して、ロケッツは常にリーグ首位だ。その費用をチャリティーに寄付すればいい。こんな物では誰もなびかない」
・米Yahoo Sportsのマーク・J・スピアーズ氏:
「ロケッツはMVP獲得のためにジェイムス・ハーデンのビデオブックを送った。ウォリアーズはステファン・カリーのプレーに語らせようとしている」
カリー or ハーデン?
今季も残すところあと10日ほど。果たして栄光を手にするのはどちらになるだろう?
「よりチームを一身に背負っている」という面で見れば、ハーデンに分があるかもしれない。今季のハーデンは得点/アシスト/スティール/出場時間でチーム最多、そしてリバウンド、ブロックでチーム2位を記録している。4月6日の時点では、僅差でリーグの得点王だ。
ウォリアーズはもしカリーがいなくても5割前後の勝率を挙げられそうだが、ロケッツの場合はハーデンがいないと絶対に機能しないだろう。35勝に届くかどうかも怪しい。
シーズンの半分以上でドワイト・ハワードやテレンス・ジョーンズといった主力メンバーを欠いていたチームを、53勝24敗のウェスト2位に牽引できたのはある意味奇跡だ。少しハーデンを過大評価しすぎかもしれないが、仮に全盛期のコービーやTマックに今のウェストで今のロケッツを与えたとして、ここまで導けたかどうか?
▼ハーデン、5日サンダー戦でのクラッチプレー
その一方で、カリーは今季首位チームのベストプレーヤー。しかもただの首位チームではなく、NBA史上屈指の最強チームだ。
今シーズンのウォリアーズは、1試合の平均得失点差で「+10.4」を記録している。これは2007-08のボストン・セルティックスを上回り、1991-92のシカゴ・ブルズに匹敵する数字だ。NBAの歴史で平均得失点差+10以上をキープできたチームは、今季ウォリアーズを除いてわずか7チームのみ。そのうちの6チームがその年のNBA制覇を果たしている。
▼シーズン得失点差+10以上を記録した歴代チーム
(ソース)
チーム | 成績 | 得失点差 | 結果 |
レイカーズ (1971-72) |
69-13 | +12.28 | 優勝 |
バックス (1970-71) |
66-16 | +12.26 | 優勝 |
ブルズ (1995-96) |
72-10 | +12.24 | 優勝 |
バックス (1971-72) |
63-19 | +11.16 | × |
ブルズ (1996-97) |
69-13 | +10.80 | 優勝 |
ブルズ (1991-92) |
67-15 | +10.44 | 優勝 |
ウォリアーズ (2014-15) |
63-14 | +10.40 | ?? |
セルティックス (2007-08) |
66-16 | +10.26 | 優勝 |
これほど規格外に優秀なチームのベストプレーヤーが、MVPを受賞しない理由は一つもない。ただ、2007-08セルティックスの選手はMVPを獲得しておらず、その年は57勝25敗を記録したレイカーズのコービー・ブライアントが受賞した。同じく1996-97ブルズもマイケル・ジョーダンではなく、ユタ・ジャズのカール・マローンが選ばれている。
1997年にジョーダンが取れなかった理由は完全に謎だが、ビッグ・スリー時代のセルティックスの場合は、ガーネット、ピアース、アレンの3人で絶妙なバランスが取れており、明確な“チームのベストプレーヤー”が存在しなかったためかもしれない。
だがカリーは違う。今季ウォリアーズのベストプレーヤーは誰がどう見てもカリーであり、「そこそこ強いチーム」を「歴代屈指のチーム」へと押し上げている存在そのものだ。その証拠に、平均得失点差で「+10.4」を記録しているウォリアーズだが、カリーがフロアにいない時は「-1.5」までガタ落ちしてしまう。
また今季は、カリーにとって記録的なシューティングシーズンでもある。
▼シーズン3p成功数250本以上の歴代選手
これまでに1シーズンのスリーポイント成功数で250本以上を記録したのはこの4人のみで、今季カリーを含めて合計6回。しかも1995-96のジョージ・マクラウドとデニス・スコットの場合は、3ptラインが7.24 mから6.7 mへと短縮されていた時期なので(現在は7.24 m)、本当のスリーポイントという意味ではレイ・アレンとカリーの2人だけとなる。ここ最近はカリーが毎年クリアしているので少し慣れてしまったが、よく考えれば凄まじい記録だ。
さらにカリーは今季5試合を残した時点で、すでに263本に到達している。成功率は43.5%で2005-06シーズンのアレン(42.1%)よりも高い。このあたりもMVP選考で大きなプラスになるだろう。
現時点ではカリー優勢に思えるが、結局のところ最後までどうなるかはわからない。だから面白い。
カリー | ハーデン | |
試合数 | 75試合 | 76試合 |
MPG | 32.8分 | 36.9分 |
得点 | 23.6 | 27.7 |
アシスト | 7.7 | 6.9 |
リバウンド | 4.3 | 5.7 |
スティール | 2.0 | 1.9 |
ブロック | 0.2 | 0.7 |
ターンオーバー | 3.1 | 4.0 |
FG% | 48.1% | 44.3% |
3P% | 43.5% | 38.1% |
FT% | 91.4% | 86.5% |
NetRtg | +16.6 | +6.1 |
PER | 27.6 | 27.0 |
※NetRtg= プレーヤーがフロアにいる時間帯にチームが記録する100ポゼッションあたりの得失点差
カリー or ハーデン?
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