カワイ・レナードとスパーズはどうなる?
サンアントニオ・スパーズとカワイ・レナードの間に壁があると、シーズン中から何度も噂になっていたが、本当にこんな形で終わってしまうのか?
スパーズのポポビッチHCとレナードは、ドラフト前にミーティングを設けて関係修復のためにじっくりと話し合うはずだった。またつい先日には、レナードと親しい人物と夕食を共にしたという「Basketball Insiders」のSteve Kyler記者が、「話し合いは明らかに必要だが、レナード側は決別を望んでいない」と伝えていた。スーパーマックスでの延長契約に向けてポジティブなニュースが出始めていたが、どうやらレナードは移籍を希望している様子。複数のスポーツメディアが関係者から得た情報として報じている。
報道によると、レナードはまだ今のところスパーズに直接トレードの要求を伝えていないとのこと。今回のニュースは、シーズン終了後もレナードと連絡を取り合っていたとされるスパーズにとっても寝耳に水だが、それでも予定通りレナードとの会談を望んでいるという。なのでレナード放出はまだまだ確定事項ではないが、ESPNのAdrian Wojnarowski記者やYahoo SportsのShams Charania記者など信頼度の高いNBAライターたちが一斉に報じているので、このまま決別に終わる可能性が高そうだ。
2011年ドラフト15位指名でスパーズに入団したレナードは、デビューからすぐにディフェンダーとして頭角を現し、2014年にスパーズがリーグ制覇を達成した際にはファイナルMVPを受賞。キャリア7シーズンで16.3得点、6.2リバウンド、1.8スティールを平均している。今ではリーグ屈指のツーウェイ・プレイヤーへと成長を遂げ、2015年と2016年に2季連続でDPOYに選出された他、2016年と2017年にはMVP投票でトップスリーに入った。
▼2016-17には25.5得点を平均
同日にESPNのSports Centerに出演したWojnarowski記者によれば、現時点でレナードが希望している移籍先はロサンゼルスの2チーム(レイカーズとクリッパーズ)。さらにセルティックスや76ersも候補に挙がっているという。
レナードの契約期間は残り2年で、最終年の2019-20はプレイヤーオプション。実質1年しか残っていないので、トレードで同レベルのスーパースターを獲得できる可能性はゼロと考えるべきだ。スーパースター候補を除くそれなりに有望な若手選手とドラフト1巡目指名権あたりが妥当で、怪我の状況なども考慮すると、デマーカス・カズンズ(残り1年半)やポール・ジョージ(残り1年+オプション)の時と同じように、あまり多くの対価は望めないかもしれない。
それでもレナードは、健康ならばリーグトップ5クラスの超大物で、年齢的にも全盛期真っ只中にいる。スパーズは焦らずにベストシナリオを模索すればいい。ただ、ずるずるとシーズン開幕まで持ち越して最低限の見返りしか得られなかった2004年トロント・ラプターズ(ビンス・カーターのトレード)と同じ失敗だけは何としても回避しなければならない。
ここで、スパーズにとって最も良さげなトレードのシナリオをいくつか考えてみよう(※筆者の楽観的な願望がかなり含まれています)
レイカーズ
・ブランドン・イングラム、カイル・クーズマ、ジョシュ・ハート、ルオル・デン、2018年ドラフト指名権(キャブス経由の25位):
レナードはロサンゼルス出身で、大学も南カリフォルニアのサンディエゴ(SDSU)。生まれ故郷のチームでプレイすることを希望しているとも報じられており、来夏FAで再契約に応じる可能性も高いので、レイカーズにとってはリスクが少ない。
それならばわざわざアセットを手放さず、レナードがFAになる来夏まで待つのもありだが、今レナードを獲得するのは、今夏FAのメインイベントであるレブロン・ジェイムス争奪戦で大きな武器になるはずだ。
もちろん怪我に関する心配はある。昨季のレナードはわずか9試合の出場にとどまり、現在は100%に近い状態だとされているが、再発の可能性はゼロじゃない。不安要素のあるレナードに対して、イングラムやクーズマ、ハートの有望な若手選手とドラフト1巡目指名権を放出するのは少し出しすぎな気もするが、ルオル・デンの契約を一緒に手放せるのであれば十分に魅力的な話だろう。
一方で、スパーズはイングラムとクーズマをどれだけ高く評価するか。2年/3600万ドルの不良債権であるデンの契約を背負い込んでまで獲得したい選手かどうか。
またイングラムの代わりにロンゾ・ボールをオファーされる可能性もあるが(レイカーズがレブロン獲得を本気で狙うならなおさら)、スパーズにはタイプが似ているデジャンテ・マレーがいるので微妙。ロンゾとマレーは守備面で恐ろしいバックコートコンビになりそうだが、先発ガードが2人とも外のシュートを打てないのはさすがに厳しいだろう。
スパーズにとって、レイカーズは理想のトレード相手とは言えない。もっと魅力的なオファーをできるチームはあるはずだが、レナードが「レイカーズとしか再契約しない」といった意思を表明すれば、スパーズに選択肢はなくなる。
クリッパーズ
・トバイアス・ハリス、2018年ドラフト指名権(ピストンズ経由の12位)、2021年ドラフト1巡目指名権(プロテクションなし):
クリッパーズもレナードの地元チーム。ESPNのWojnarowski記者によると、レナードはスポットライトが当たりすぎる環境を望んでいないという噂も出ているので、レイカーズよりもクリッパーズを選ぶかもしれない。
クリッパーズはレナードオークションが白熱すれば、2018年ドラフト13位指名権もプラスできる。もしこれが成立すれば、ブレイク・グリフィン+指名権がレナードになったようなものだ。
スパーズにとっては、レイカーズやセルティックスがケチりまくって理想のオファーが見つからなかった場合の最後の手段だろう。トバイアス・ハリスは非常に優秀な選手だが、もしチームがレナード放出で完全な再建モード(タンキング)に入るのであれば少し扱いにくい存在になる。2018年のドラフト指名権は12位と中途半端で、2021年ドラフト1巡目指名権もレナードがいるチームとなれば、ロッタリー指名になるかどうかさえかなり怪しい。
セルティックス
・ジェイレン・ブラウン、テリー・ロジアー、マーカス・モリス、2019年ドラフト1巡目指名権(キングス経由の1位保護付き)、2019年ドラフト1巡目指名権(グリズリーズ経由の上位8位保護付き):
そろそろ誰かがセルティックスからぼったくってもいい時期だと思う。
Wojnarowski記者によると、セルティックスは昨季2月のトレードデッドラインでスパーズにレナードのトレードを打診していたらしい。もしその時点でスパーズがトレードに応じていれば、ジェイソン・テイタムを獲得できていたかもしれないが、テイタムのプレイオフでの活躍があまりにも目覚ましかったため、今となってはそれも夢物語だ。
セルティックス的には、もし制限付きFAのマーカス・スマートをサイン&トレードでオファーに含めることができれば、もっと簡単に事が運ぶ。
▼セルティックスのドラフト宝箱
また一部では、セルティックスがカイリー・アービングもしくはゴードン・ヘイワードをオファーするのではという見方もあるが、いくらダニー・エインジGMとはいえ、果たしてそこまで無慈悲なトレードに踏み切るかどうか?
76ers
・マーケル・フルツ、ダリオ・シャリッチ、ロバート・コビントン、ジェリッド・ベイレス、2018年ドラフト1巡目指名権(レイカーズ経由の10位):
セルティックスほどではないにせよ、シクサーズもスパーズにとって魅力的なアセットを持っている。特にマーケル・フルツに関しては、大きな賭けではあるが、スパーズ指導下でドラフト1位指名としてのポテンシャルを開花させる可能性も十分にある。
ただ問題は、レナードに76ersと再契約する意思があるかどうか。そして今の76ersにはブライアン・コランジェロの騒動で正規のGMがいないことだだろう。
個人的なドリームシナリオとしては、レブロンがFAでシクサーズへの移籍を明確にし、「ベン・シモンズとはプレイスタイルが合わないからトレード放出してくれ」と意味不明な要求をして、シモンズがスパーズの一員になる世界線。99.9%あり得ないことだが、妄想するのは自由だ。
キングス
・2018年ドラフト1巡目指名権(2位指名、ルカ・ドンチッチ!!)、ジャスティン・ジャクソン、スカル・ラビシーレ
普通に考えれば、1年限りのレンタルに終わる可能性が高いスター選手を獲得するために、将来のフランチャイズプレイヤーになり得るドラフト2位指名権を手放すのはあまりにも馬鹿げている。ただ、これまでにもいろいろとトレードでやらかしてきたキングスならば、可能性はゼロじゃない。
もしこのトレードが実現すれば、スパーズにとっては最高のシナリオだ。心置きなく再建に移ることができる。
※ ※ ※
トレードで鍵となるのはレナードの健康状態、そして何よりレナードに再契約の意思があるかどうか。
レナードに再契約したいと思えるチームが多ければ多いほど、トレード価値はあがってオファーの質も良くなる。もしキングスでも構わないという姿勢を見せれば、キングスは本気でドラフト2位指名権の放出を検討するだろうし、他のチームも入札額を上げてくるだろう。
反対に「レイカーズにしか興味なし」といった発言がレナードから飛び出せば、スパーズの立場は一気に不利になる。ポール・ジョージを放出した昨夏のペイサーズと同じ状況だ。ペイサーズの場合は、ビクター・オラディポが翌シーズンに大ブレイクしたので救われたが、同じような奇跡が起こる可能性は高くない。
今回の件がどんな形で収拾するにせよ、スパーズは来季もプレイオフ進出を狙えるチームになるはず。実際に昨季もほぼレナード抜きで7位シードを獲得した。そこに+アルファが加わると考えれば心強い。ただレナードがいなければ、ウォリアーズやロケッツに到底及ばないのは明らかだ。
来季にはラマーカス・オルドリッジが33歳になり、パウ・ガソルは38歳。41歳になるマヌ・ジノビリも去就は今のところ不明。さらにFAのトニー・パーカーは36歳で、ダニー・グリーンとルディ・ゲイはプレイヤー・オプション、カイル・アンダーソン、ブリン・フォーブス、ダービス・バータンの3選手は今夏に制限付きFAとなる。さらにポポビッチHCに関しては、2020年の東京五輪を最後にコーチングキャリアを引退するかもしれないという報道も出ていた。
ここでスパーズは決断を迫られる。オルドリッジとポポビッチHCがいる間は戦えるだけ戦うか、それとも1度リセットボタンを押してみるか。
再建に向けてリセットするのであれば、このタイミングがベストなのかもしれない。そのためにはレナード放出の他にも、オルドリッジやパティ・ミルズのトレードも検討する必要がある。
2010年代前半のボストン・セルティックスは見事な再建を見せた。優勝を狙える時期が完全に終了したと判断するや否や、ポール・ピアースやケビン・ガーネット、ラジョン・ロンドらチームの軸だった選手たちを次々と放出。ドラフト指名権をかき集められるだけかき集めると(同時にアイザイアやクラウダーら低サラリーの有力選手も獲得)、それらはジェイソン・テイタムやジェイレン・ブラウン、そしてカイリー・アービングに変わり、最短期間で再びトップを狙えるポジションに返り咲くことができた。
セルティクスの再建は、優れたヘッドコーチとフロントオフィス、スカウト、そしてタイミングと幸運が重なり合ったNBA史上稀に見るレベルの大成功だ。それを再現するのは簡単ではないが、FAで「スーパーチーム」を作れないスパーズのようなスモールマーケットチームにとっては、理想とすべきモデルだろう。
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もしかするとお気づきの方もいるかもしれませんが、実のところ当ブログの管理人はスパーズファンです。全盛期のフランチャイズスターがチームを出たがっている、再建突入か?という状況は未知の領域であり、特にレナードは生涯スパーズを貫き通す選手だと信じて疑わず、関係悪化の報道にも「どうせメディアが騒いでいるだけ」と高を括っていたので、今回のニュースはある意味ダンカンの引退よりもショックでした。
最近だと、デュラントやアービング、カズンズ、ポール・ジョージら生え抜きのスターたちが移籍した時は、他のチームということもあって、中立的かつ冷静な目で見ていたつもりですが、今回ばかりは難しそうです。レブロンのFAで少しワクワクしていた数日前が懐かしい…。
関係が悪化した原因は、レナードの怪我に関する見解の食い違いだったとされています。ただそれ以前から、いろいろと球団に対する不満はあったのかもしれません。
例えば2017年のFAでスパーズがレナードと息が合っていそうだったジョナサン・シモンズやドウェイン・デッドモンを引き留めようとしなかったこと。その代わりに、パウ・ガソルとパティ・ミルズらの残留と高額契約を優先したこと。そしてシーズン途中でのトニー・パーカーのコメント(「レナードよりも100倍辛い怪我だった」、パーカー的にはジョークっぽく語っていましたが)。個人の勝手な憶測ではありますが、そういったことが積もり積もって今の状況に陥ったのかもしれません。
レナードのトレードシナリオを考えるだけで暗い気持ちになりますが、本当に決別しか選択肢がなくなった時は、スパーズには中途半端な延命措置をするのではなく、すぐにでも完全な再建に入って欲しいですね。オルドリッジには申し訳ないですが、プレイオフ連続出場記録が途絶えることになっても、ポポビッチHCがいる間に“次のフランチャイズエース”発掘に全力を注ぐべきだと思います。
複数の報道によれば、すでに関係修復は不可能な状態とされています。すべてをザザ(パチュリア)さんのせいにして、現実逃避といきたいところですが、それでもトレードが正式になるまではレナード残留の可能性を信じたい。昨季オフにオルドリッジがトレードを要求した時と同じように、もしかするとポポビッチHCとの会談で風向きが変わるかもしれません!!震えながら結末を見守りたいと思います。
それからレナードがどのチームのユニフォームを着ることになろうと、大好きな選手の一人であることには変わりないので、「2番」のスパーズユニフォームは燃やさずに取っておこうと思います。
参考記事:「Yahoo Sports」