リック・カーライルHCがダラス・マーベリックスのHCを辞任、ドンチッチとの軋轢も一因か
長年ダラス・マーベリックスを支えた球団トップ3人の内の2人が電撃退団だ。
マブスのリック・カーライルHCは現地6月17日、ESPNを通じて来季以降の去就に関する声明を発表。今季限りでチームのヘッドコーチを辞任することを明かした。
カーライルHCの辞任声明は以下の通り:
「先週にマーク・キューバン(オーナー)と何度か直接話し合い、そして本日、ダラス・マーベリックスのヘッドコーチを続けるつもりがないことを彼に伝えました。これは専ら私の決断です。この素晴らしい街で、素晴らしい人々と共に働いた13年間は素晴らしい経験になりました」
「マークやクリント(マーシャルCEO)、ドニー(ネルソン)、フィン(マイケル・フィンリー)、ダーク(ノビツキー)、JKidd(ジェイソン・キッド)をはじめ、私がここで出会ったすべての選手やアシスタントコーチ。君たちと仕事ができて光栄でした。ダラスはこれからも私にとってのホームです。だが同時に、コーチング人生の次の章の始まりにワクワクしています」
カーライルHCは、2008年のヘッドコーチ就任から13シーズンにわたってチームを指揮。レギュラーシーズン通算555勝478敗でフランチャイズ史上最多勝利を獲得したコーチとなり、2011年には念願の初優勝を果たしている。
なぜ今、辞任?
今週に入ってからマブスにまさかの急展開。まず15日には、米スポーツメディアの『The Athletic』が、マブスフロントオフィスの亀裂について報道。その翌日の16日には、20年以上にわたって球団のフロントオフィスのトップの1人として尽力した重鎮のドニー・ネルソンGMが退任を表明した。
そして今回のカーライルHC辞任。
マブスは2011年の優勝から1度もプレイオフシリーズに勝てていない。ここ数年のドラフトやFA、トレードでの実績を見ても、ルカ・ドンチッチ獲得を除けば、どれもあまりパッとしない印象だ。チャンピオンシップ・コンテンダーを目指すうえで、大きな改革を必要とする時期に差し掛かっていたのかもしれないが、まさかカーライルHCが辞めるとは思わなかった。しかもチームの意向ではなく自らの意志でだ。
カーライルHCは「コーチキャリアの次章が楽しみ」という一文で辞退声明を締め括っている。なのでNBAでのヘッドコーチ職自体を辞めるつもりは微塵もないのだろう。
なおマブスとカーライルの契約はあと2年残っていた。なぜこのタイミングで辞任?なぜそのまま続投ではだめだったのか?
ネルソンGMの退任が一因となったのは間違いない。カーライルとネルソンは40年来の友人で、同じ高校のバスケ部出身(Worcester Academy)。カーライルが2008年にマブスヘッドコーチの候補にあがった際には、インディアナポリスにあるネルソンの自宅でミーティングが行われたという。
13年間チームを指揮したカーライルHCの“忠誠心”は、マブスに対するものよりも、ネルソンGMに対するものが大きかったのかもしれない。
ドンチッチとの確執
また、フランチャイズスターであるルカ・ドンチッチとの軋轢が、カーライルHC辞任の理由の一つになったという噂も出ている。
ESPNでマブス番記者を務めるTim MacMahon記者は、ドンチッチとカーライルの関係性を「一触即発の緊張状態」(simmering tension)と表現。2人の確執はドンチッチが新人だった2~3年前から存在していたと、同日に出演したポッドキャスト番組『Lowe Post』で関係者から得た情報として明かした。
MacMahon記者によると、カーライルHCは指導が非常に厳しいオールドスクールなコーチで、特に近年ではサラー・メジュリに対する当たりがきつかったとのこと。メジュリは2015年から4年間マブスに所属したチュニジア出身のビッグマン。ドンチッチとはレアル・マドリード時代から交流のある親しい友人で、マブスでも2018年に1シーズンだけチームメイトとして一緒にプレイしている。
MacMahon記者は、カーライルHCのメジュリに対する扱いが、ドンチッチがヘッドコーチに不信感を抱くきっかけになったのではと考察していた。
カーライルHCとドンチッチが性格的に合わないというのは何となくわかる。カーライルはシステムを重んじるタイプの指揮官だが、ドンチッチは常に自由奔放にプレイするオンコートの司令塔。ドンチッチが試合中にカーライルの采配に反発することも珍しくなく、今年のプレイオフでもドンチッチがタイムアウトのタイミングに不満げな表情を浮かべるようなシーンが見られた。
マブスの次期ヘッドコーチは?
カーライルHCは現リーグ屈指の名将。特にインゲームでの指揮力に長けており、今季プレイオフの第1ラウンドでも、スモール主体のクリッパーズに対して、クリスタプス・ポルジンギスとボバン・マリヤノヴィッチを同時起用するジャンボラインアップをぶつけるなど、型破りなアジャストメントを仕掛けて対戦相手に揺さ振りをかけた。
現地メディアによれば、現時点でリック・カーライルの後任候補に名前が挙がっているのは、ジェイソン・キッドとテリー・ストッツ、ジャマール・モーズリーの3名だ。
ジャマール・モーズリーは現マブスのアシスタントコーチで、選手たちからの信頼も厚い。MacMahon記者によれば、ドンチッチもモーズリーを推しているらしく、今季4月のニックス戦でモーズリーが臨時HCを務めた際には「ヘッドコーチに必要な資質を持っている」と、その手腕を称賛していた。
ESPNによると、マブスは先にGMを雇用してからヘッドコーチ探しに乗り出す予定とのこと。マブスの次期ヘッドコーチ/GMには、ドンチッチという10年に1人レベルのタレントを有するチームを正しく育成/指揮する大役が求められる。そのプレッシャーは計り知れないが、その一方でこれほどやりがいのある仕事は滅多にないだろう。
なおドンチッチは、今オフのルーキースケール延長契約の対象選手。2年連続でオールNBAチーム入りしているため、延長契約のマックスサラリーは5年/2億ドル以上になると予想されている。
ネルソンとカーライルの同時退団が内部崩壊のようにも見えるため、一部のファンの間ではドンチッチの去就を危惧する声も出ているが、それは無用の心配だ。仮にドンチッチがチームにいくつか不満を感じているとしても、2億ドルの契約を辞退するのは常識的に考えてあり得ない。
もちろん、カワイ・レナードやアンソニー・デイビスのように、ドンチッチがルーキー延長契約の途中でトレードを要求する可能性はある。ただそれは最短でも2023-24シーズン以降の話。
参考記事:「ESPN」