ベスト・オブ・2018-19: エルサン・イルヤソバのテイクチャージ
体を張ってオフェンスプレイヤーからファウルを引き出す「テイクチャージ」は、地味ながら奥の深いプレイだ。
テイクチャージをコンスタントに成功させるには、まず相手の動きを先読みしてポジションを確立するバスケットボールIQと、激しいコンタクトを恐れない勇気。さらに接触の際に衝撃を吸収しつつ、少し大袈裟目に倒れて審判にチャージの笛を吹かせる演技力も必要となる。
タイミングやポジショニングを間違えればブロッキングファウルを取られるし、多用し過ぎれば“フロッパー”の汚名を着せられるかもしれない。ただ上手く成功させれば、試合の流れを大きく変える超ファインプレイにもなり得る。
今年のワールドカップでも大活躍したミルウォーキー・バックスのエルサン・イルヤソバは、テイクチャージが抜群に上手い。
2018-19シーズンのイルヤソバは、レギュラーシーズンとプレイオフの合計テイクチャージ数で56回を記録。これは、2位のカイル・ラウリー(39回)を大きく上回るリーグダントツ首位の数字だ。
▼イルヤソバの2018-19テイクチャージ集
テイクチャージは、身体能力がそれほど高くないビッグマンがNBAで生き残るためのスキルの一つだ。テイクチャージが上手い選手は、プロアマを問わず、どのレベルのリーグでも重宝される。
なおイルヤソバのテイクチャージ集動画を投稿したのは、ややマイナーな選手に焦点を当てることで有名なYouTuberのDownToBuck。その動画説明欄の内容が非常に興味深かったので、以下に紹介したい:
※ ※ ※
「おいおい、本当にそんな恰好でビーチに出かけるつもりなのか?」
玄関口に立っていたエルサン・イルヤソバはその問いに肩をすぼめた。「そうだな。湖岸の気温は都市部よりも5~6度ほど低くなる時がある。今日は風が強いかもしれないだろ?寒いのは嫌なんだ」
スイムパンツとタンクトップを着た双子のブルック・ロペスとロビン・ロペスが困惑した表情で視線を交わす。
「なあ、俺たちはまだチームメイトになったばかりでそれほど親しくないけど、一つ言わせてくれ。お前は色白すぎるよ」とロビンは言った。「お前はもう少し太陽を浴びたほうがいい。まるで吸血鬼みたいだぜ?」
「あはは、吸血鬼ね」とエルサンは無表情な声で言った。
「その分厚いパーカーとスウェットパンツはまだいいとしよう。だがせめてサングラスはもう少しお洒落なやつにするべきじゃないかな?」とブルックは言った。
エルサンはサングラスを覆い隠すようにフードを深く被った。「僕の目はとても日光に敏感なんだ。僕がビーチに出かけるなんて滅多にないことだよ。君たちはラッキーだ」
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「本当に熱くないのかい?」
情熱的かつ泥酔中のミルウォーキー人たちとの即興ビーチバレーを終えて戻ってきたブルックがエルサンに尋ねた。エルサンは直射日光を浴びながらビーチタオルの上に横たわっていた。エルサンが着ていたグレーのスウェットパンツはすでに汗でびっしょりと濡れ、黒に近い色になっていた。
「ああ、平気だよ」とエルサンはブルックに返事した。だが実際のところ、エルサンは少しも平気ではなかった。まるでオーブンで丸焼きにされている気分だった。絶対に肌を日光に晒してはならない。そのことは百も承知なはずなのに、なぜエルサンはビーチに遊びに行く誘いを承諾したのだろう?
「もしかして湖からの風で体が冷えたのか?それならば俺のパーカーを貸そうか?」
激しい運動をしたばかりのブルックは汗だくで、その姿は周りにいるビキニを着た多くの女性たちの貪欲な視線を釘付けにしていた。
「いや、結構だ」
そこで今日の集まりに遅れてやってきたヤニス・アデトクンボが会話に混ざり、エルサンの風貌について楽しげに言及した。「でもお前の妻、お前がナンパしに来た思わない」
その発言にヤニスのガールフレンドがクスクスと笑う。「スムージーある」とヤニスはバックパックを下ろしながら言った。ヤニスがバックパックを開くと、そこには色とりどりのドリンクがボトルに詰められていた。「エルサン、欲しい?」
エルサンは首を横に振った。「ありがとう、でも喉は乾いていないんだ」
それは真っ赤なウソだった。エルサンの喉はカラカラだった。冷えたミックスジュースが渇いた喉を通過するところを想像するだけで、エルサンの体は震えが止まらなくなりそうだった。だがエルサンは、その厚着の下で暑さに苦しんでいるという事実を誰にも知られるわけにはいかないのだ。もし知られれば、無理やり服を脱がされてしまうかもしれない。
エルサンはヤニスの自家製スムージーを幸せそうに飲むチームメイトたちから目をそらした。それでも爽快感にため息をつく彼らの声が聞こえてくる。むしろその音がエルサンを苦しめた。
その後ヤニス、ロビン、ブルックの3人は波打ち際へと移動したが、エルサンは相変わらずビーチタオルに寝そべったままだった。空に散らばった雲が、例え一瞬でも構わないので太陽を遮り、肌を焼き焦がすような日差しを少しでも和らげてくれることを彼は祈った。
どれくらいの時間を我慢すれば彼らに悪い印象を与えることなくこの場を抜け出せるだろう、とエルサンは頭を悩ませていた。ビーチに着いてからまだ30分といったところだが、すでに彼は死が迫りくるのを感じていた。
間もなく、水遊びを十分に堪能した様子の3人がエルサンのところに戻ってきた。同時に、エルサンはスターリング・ブラウンが反対方向からこちらにやって来るのに気がついた。彼の手には新品であろうスイムパンツとサングラスが握られていた。
「君がUVカットのサングラスを欲しがっていると彼らに聞いたんだ」とスターリングは言った。「試してみなよ!」
「僕は今のサングラスで満足している」エルサンは頬がすっぽり隠れるほどパーカーの紐をきつく引っ張った。「それから僕は泳ぐつもりもない。だからそのスイムパンツも必要ないね」
エルサンはスターリングの申し出を断ったが、彼らは聞く耳を持たなかった。パーカーのチャックを下ろそうと、彼らの手がエルサンに伸びてきた。笑い声が聞こえる。これから起こる事態の深刻さを理解していたならば彼らは絶対に笑えないだろう、エルサンは心の中で呟いた。
エルサンの抗議や抵抗も空しく、パーカーのフードは一瞬で外されてしまった。そして事態は最悪の方向に進む。誰かがエルサンのサングラスを掴み、彼の顔から強引に剥ぎ取った。
「目が、目がぁぁ!!」
エルサンは悲痛な叫びをあげた。すぐに両手で目を覆い隠そうとするが、すでに手遅れだった。エルサンの眼球が眼窩の中でくすぶり、溶けていった。その光景に驚いたチームメイトたちはすぐに彼から手を放した。エルサンはもだえ苦しみながら膝から崩れ落ちた。
エルサンの骨は粥のようにドロドロになり、肌は蝋のように体から垂れ落ちていく。最初に感じていた苛烈な痛みは、神経が消滅すると同時に収まった。そして脳が崩壊したところで、彼の意識は完全に途絶えた。臓器が液状化したことで服がずぶ濡れになってしまう、エルサンは消えゆく意識の中で思った。
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ロビンは砂浜に吸い込まれつつある水たまり状のエルサンの残骸を見下ろしている。「だから言っただろ。こいつは吸血鬼だって」
Video:「YouTube」