ブレイク・グリフィン 「デアンドレ奪還」の1日を語る
デアンドレ・ジョーダンとマブスの契約合意白紙の可能性が最初に報じられた現地7月8日、ネット上ではリーグ情報筋からの様々な“情報”が飛び交っていた。クリッパーズが球団総出で説得…、ジョーダンを自宅監禁…。最終的にデアンドレはクリッパーズ残留を決意したわけだが、その過程で実際は何が起こっていたのか?
騒動の最初から最後まで現場にいたブレイク・グリフィンが、The Players Tribuneにコラムを寄稿し、今年のフリーエージェンシーで最も注目が集まった1日の内情について明かしてた。
※以下、The Players Tribuneの記事を抄訳:
『The Standoff』
僕はポール・ピアースを見ていた。シッポを掴んでやろうと、観察するような目で。ポールはJ.J.レディックを見ている。J.J.は僕を見ていた。デアンドレ・ジョーダンの優雅なリビングルームで、僕たちは携帯電話を片手に、輪になって座っていた。Twitterがリーク情報や噂話で沸騰していることについて、その場にいた全員が不信感を抱いている。
「密告者は誰だ!?」
僕はJ.J.に視線をやった。なるほど。確かこの男は、チームと一緒に飛行機でヒューストンに来ていない。オースティンから車に乗ってきた。車の中で1人きりの2時間。 じっくりと策略を練るための時間が十分にあったはずだ。どうも怪しい。
「J.J.、お前が密告者じゃないのか?」
「違う」とJ.J.は言う。 むしろ彼は僕を疑っているようだった。確かに僕はチームよりも1日早くLAを出発している。それなら、なぜ僕はハワイの写真をTwitterに投稿していたのか?J.J.は不思議に思っているはずだ。何か隠し事があるからでは?
「さっきドライブに出かけていたよな?お前が密告者なのか、ブレイク?どうなんだ?」
僕は「違う」と返事をした。
ポールの視線の先には…。いや、実際のところ、ポールはすでに興味を失くした様子で、テレビ番組の『Naked And Afraid』を観ている。ただその一方で、Cp3とJ.J.は僕を見ていた。2人は、僕の皿の上にのった美味しそうなチキン・テンダーロインとガーリックトーストをじっと見つめている。部屋の隅のバーバーチェアに座るチームアシスタントのマティアスは、くるりと体を回転させ、僕に疑いの眼差しを向けた。
「なら、どうしてみんな知ってるんだ?ツイッターはお前が食べているチキンフィンガーのことをどうやって知ったんだ!?」
彼の言う通りだ。僕は愕然とした。
7月8日(水曜日)、ソーシャルメディアにはデアンドレ・ジョーダンの契約に関する情報が出回っていたが、その多くは全くの的外れだった。僕はその日の朝に起床してから、チームメイトやスタッフ数名と一緒にチャーターバスに乗ってホテルへと向かった。デアンドレに会うためだ。勧誘のためのビジネスミーティング。この場合は再勧誘と言うべきか。僕は冗談でハワイの写真、飛行機やヘリコプターの絵文字をツイートしていた。チャンドラー・パーソンズの絵文字ツイートに対抗するためさ。でも本当のところ、僕はすでにヒューストンにいた。デアンドレはその週の月曜日から、マブスへの移籍に迷いを感じていたんだ。
火曜日の朝には、デアンドレが本当に頭を悩ませていることがわかった。ダラスの人たちを失望させたくない、だけど心では移籍を望んでいない…。そんな彼の葛藤が見て取れる。僕とデアンドレは、毎日テキストメッセージで連絡を取り合っていた。話題はバスケットボールのことだけでなく、大部分は人生について。何よりもまず、彼は僕の友達だ。僕は着替えをバッグに詰め込むと、LAXのゲートを走り抜け、ヒューストン行きの飛行機に乗った。目的は、デアンドレにクリッパーズを売り込むためじゃない。僕たちは、絶対にそんな引き止め方をしないよう、ずいぶん昔から約束していた。ただ僕は友人の側にいて、話を聞いてやりたかったんだ。
火曜日の夜に一緒に食事した時も、バスケの話は恐らく5分ほどしかしていない(神に誓うよ)。デアンドレにプレッシャーを与えたくなかった。気まずくなってしまうからね。親しい友人とは、そういうものさ。僕はただ、彼がLAにいるべきだと思う理由を伝え、それからこう言ってやった:「いいか、お前がどんな決断をしようとも、俺たちはこれからも友達だから」と。僕は純粋にそう思っていた。つまるところ、僕たちも人間なのだ。契約先を決めるというのは、単なるユニフォーム選びとは違う。遥かに複雑な過程だ。友人や家族、エージェント、そして幸せにしてやりたいと思う人たちからのあらゆる種類のプレッシャーがのしかかる。
とりあえずデアンドレは、わだかまりを取り除き、みんなと話をしたがっていた。僕たちは、1ヵ月前にそうしておくべきだったのだろう。でもそれが人生。仕方がない。言うべきことを言葉にできない時だってある。
翌日は、クリッパーズのみんながミーティングのためにヒューストンにやって来る予定になっていた。僕たちはデアンドレの家に戻り、ケーブルテレビで『愛しのローズマリー』を観て、それから床に就いた。
水曜日の朝、ツイッターで絵文字バトルが始まった頃、こんな感じの見出しが飛び交っていた: 『クリッパーズがヒューストンに降臨』『デアンドレ 自宅で監禁状態』『クリス・ポールはミーティングに出席せず』『マーク・キューバン デアンドレを探してヒューストンをドライブ中』
すべて間違っている。『リポート: LACが3時間以内にデアンドレとミーティングか』というツイートが出回っていた時は、すでにみんなデアンドレの家に集まっていた。僕に関しては、クリッパーズのサマーゲームをテレビで観ながら、ソファーの上でうとうとしていたと思う。その1時間後、枕をよだれまみれにして目を覚ますと、僕の携帯は通知の大洪水になっていた。「デアンドレは大の大人だ!人質にするのはやめろ!」、「これは犯罪だ!警察に通報する!」、こんなことをツイートしている人たちもいた。
正直なところ、どちらかと言えば退屈な1日だった。凄く地味なファミリーパーティーといった感じだ。テレビを観ている奴もいれば、ビデオゲームで遊んでいる奴もいる。しばらくしてから、僕は暇つぶしのため、1時間ほど車で目的もなくヒューストンをドライブした。家に戻った後は、デアンドレが正式に契約できる午後11時まで、ダラダラと時間を過ごすだけだ。誰かがツイートを声に出して読み上げ、そこにいた全員を震え上がらせたのは、ちょうどその時だった。
「おい…、ちょっと待てよ。どうしてみんなは俺たちが『Raising Cane’s』を食べていることを知っているんだ?」
『Raising Cane’s』とは、チキン・フィンガー、クリンクルカットポテト、ガーリックトースト専門のファーストフードレストランである。最高にデリシャス。これは宣伝記事ではない。僕の大好物だ。デアンドレの母親が、家でくつろいでいるみんなのために、50袋ほど買ってきてくれたものだ。スティーブ・バルマーはクレジットカードを取り出して、「よし、何が欲しい。何でもいいぞ」と言った。
必然的に僕たちはチキン・フィンガーを選んだ。
どこかの一流記者がこのホットな最新情報を入手して、Twitterフォロワーたちに共有した。信じられない。絶対に不可能だ。一体どうやってこんな情報を仕入れたというのか?全員が部屋を見回した。情報はこの家の内部から発信されているのだ。
疑惑が部屋を飛び交った。その場にいた全員の携帯電話が検査された。趣味よくデザインされたリビングルームに集まるスウェットスーツ姿の男達、という点を除けば、まるで映画『レザボア・ドッグス』のラストシーンのようである。最終的に、僕たちは再びチキンに手を伸ばし、リークの件を忘れることにした。すべては時間を潰すための、ただのジョークだ。9時間も家の中にいたせいで、頭がおかしくなり始めていたらしい。
午後11時1分、誰かが契約書を持ってきて、デアンドレはそれにサインした。男のハグが交わされた。そして外で待たせてあるバスに乗るため、僕たちは家を出ることにした。これから空港に向かうのだ。外に出る途中、僕はデアンドレの方を振り返った。久しぶりに幸せそうな表情を浮かべている。「まあ、大変だったな。これで少なくとも、俺がどれだけお前のことを愛しているのか理解しただろう。まるで狂人のようにLAの空港を走り抜けてきたんだ。お前のためだよ、ブラザー。でもこの件に関しては、二度と口にしないようにしよう」、僕はそう言ってやった。
僕たちはバスに乗り込んだ。バルマーが何か言った。続いてドックが何か言った。それから僕たちはお互いの顔を見合わせ頷いた、「よし、やってやろう!」。
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グリフィンの話には誇張されている部分もあるだろうが、今回の件でチームの結束がより一層強まったはず。クリッパーズにとっては、昨季プレイオフの大失態から立ち直り、新たなスタートを切るための良いきっかけになったかもしれない。
ソース:「Players Tribune」