ジャズが守護神のルディ・ゴベアをウルブズにトレード
2022NBAフリーエージェンシー2日目の現地7月1日、ウェスタンカンファレンスの勢力図を大きく塗り替えるかもしれない大型トレードが、ユタ・ジャズとミネソタ・ティンバーウルブズの間で合意に至った。
ウルブズは、パトリック・ベバリーやジャレッド・バンダービルトら昨季スターター2人を含む5選手、さらに将来のドラフト1巡目指名権4つとスワップ権1つを放出。この超豪華なオファーの見返りに、ジャズからDPOYのルディ・ゴベアを獲得する。
トレードの詳細は以下の通りだ。
ジャズ獲得:
- マリーク・ビーズリー
- パトリック・ベバリー
- ジャレッド・バンダービルト
- レアンドロ・ボルマロ
- ウォーカー・ケスラー
- ドラフト1巡目指名権4つ(2023、2025、2027、2029)
- 2026ドラフト1巡目スワップ権利
ウルブズ獲得:
- ルディ・ゴベア
ウルブズが放出したドラフト1巡目指名権の内、2023年、2025年、2027年の3つ、そして2026年のスワップ権はいずれも保護なし。2029年指名権にはトップ5位のプロテクションがついている。
またウォーカー・ケスラーは2022年ドラフト22位指名の新人なので、ジャズは事実上、合計5つの1巡目指名権を獲得したと言える。
トレード合意が報じられた半日後、ゴベアは自身のインスタグラムを更新。「ユタはこれからも僕にとって特別な場所」とジャズとファンに向けて感謝とお別れのメッセージを綴った。
「ユタ!!9年前に入団したとき、僕はフランスから来たただの子供でしかなかったが、あなたたちは最初から僕を歓迎し応援してくれた。皆の目の前で、人間として、そして選手として成長することができた。この場所で過ごしたすべての瞬間に感謝している。ユタとそのコミュニティは、これからも僕の心の中で特別な存在となる。ありがとう!この恩はずっと忘れない。そして旅路は続いていく…」
– ルディ・ゴベア
ウルブズとジャズの両チームの視点から、それぞれ今回のトレードを考察してみたい。
ゴベア&タウンズ
これで来季以降のウルブズは、スターティング/クロージング・ラインアップでカール・アンソニー・タウンズが4番、ルディ・ゴベアが5番に入ることになる。ほぼ真逆の長所を持ったセンター2人による超強力なツインタワー誕生だ。
まずタウンズは、“NBA史上最高のビッグマンシューター”の1人と呼ばれるほどオフェンス力に特化した7フッター。昨季はスリー成功率41%から24.6得点を平均しながらウルブズを4年ぶり、過去18年で2度目のプレイオフ進出に導き、2022オールスターではビッグマンとして2012年のケビン・ラブ以来10年ぶりとなる3Pコンテストの王者に輝いた。
一方のゴベアは、歴代屈指のリムプロテクターであり、ヤニス・アデトクンボやドレイモンド・グリーンと並んで現リーグトップ3に入るディフェンダー。過去5シーズン中3シーズンでDPOYに選出されている。
スリーポイントラインでの攻防が主戦場となり、サイズよりも機動力やマルチスキルに長けたビッグマンが重宝されるようになったモダンNBA。“ツインタワー”は、スペーシングを重視する今のリーグのトレンドに逆行するロスター構成だが、ゴベアとタウンズのフィットは決して悪くないはずだ。
ゴベアはスクリーンからのリムランやプットバックが主な得点源なのに対し、タウンズはプルアップスリーやポストアップ、トリプルスレットからのレーンドライブなど、あらゆる角度から点を取れるオールラウンドのビッグマンスコアラー。そもそもタウンズは、全盛期のダーク・ノビツキーのように、スキル的にパワーフォワードこそが理想的なポジションと言えるかもしれない。
例えば、ゴベアがロール、タウンズがポップするダブルスクリーンから、アンソニー・エドワーズもしくはディアンジェロ・ラッセルがオンボールで切り込むピック&ロールアクションは破壊力抜群だろう。
リムとスリーに特化したビッグマン2人に、P&Rを操れるスラッシャーが2人いる布陣は、2014-15シーズンにリーグトップのオフェンス力を誇ったダラス・マーベリックスを彷彿させる(ノビツキー、タイソン・チャンドラー、モンテ・エリス、チャンドラー・パーソンズ)。
▼昨季3月には球団新の60得点をマークしたタウンズ
他にも、昨季のキャブス(エバン・モーブリーとジャレット・アレン)や2019-20シーズンのレイカーズ(アンソニー・デイビスとジャベール・マギー/ドワイト・ハワード)など、近年のNBAでツインタワーが成功した例はいくつもある。ただ新生ウルブズのように、チームのマックスサラリー2選手がどちらもセンターポジションというケースは極めて珍しい。
今回のトレードで、ウルブズはゴベア獲得のために2020年代のドラフトアセットを総放出した。NBAには自軍のドラフト1巡目指名権を2年連続でトレードできないルールがあり、加えてトレード放出できるのは最長で7年先の指名権までだ。よって、ウルブズが次に自身のドラフト指名権をトレードアセットとして使えるようになるのは、2年後の2024年FA(2031年の1巡目指名権)となる。
もし主力の長期離脱さえなければ、来季以降のウルブズは毎年ウェスト上位に食い込めるポテンシャルを持っているだろう。だが優勝を狙えるチームになれたかを問われると、現時点では疑問の残るところだ。
長年ポストシーズンと無縁だったウルブズのようなスモールマーケットチームにとっては、中堅のプレイオフチームになれるだけで満足なのかもしれない。ただ、そのために犠牲にした将来のアセットは莫大。一歩間違えれば、2010年代中盤のブルックリン・ネッツが経験したような地獄に陥るリスクもある。
またオフコートでのフィットも少し気になるところ。というのも、アンソニー・エドワーズがほんの半年ほど前に“ゴベア批判”のコメントを発したばかりだったからだ。
昨年12月、エドワーズはジャズとの試合に敗れた翌日に、ゴベアの守備について「少しも怖くない」とコメント。「クリスタプス・ポルジンギスの方が優れたリムプロテクター」とDPOYのゴベアに対して挑発的な発言をしていた。
タレントレベルを見ると、来季ウルブズのポテンシャルは近年のジャズよりも高い。どんなチームに仕上がるのか、2022-23シーズン開幕が楽しみだ。
リビルドorリツール
ついにルディ・ゴベアとドノバン・ミッチェルのコアに見切りをつけたユタ・ジャズ。レギュラーシーズンでは好成績を記録してきたものの、プレイオフでは毎年のように5アウトのスモールラインアップ相手(マブスやクリッパーズなど)に大苦戦して敗退。ゴベア&ミッチェルの基柱に限界を感じたのだろう。
NBA界隈を驚かせた今回のトレードだが、ジャズ大改革の予兆は以前からあった。
まず今オフのジャズは、2017年から6シーズン連続でチームをプレイオフ進出に導いた名将のクイン・スナイダーHCを解任。さらに今夏FA解禁前日の現地6月30日には、ドラフト1巡目指名権(+サラリーダンプ)と交換に先発フォワードのロイス・オニールをトレード放出。今思えば、ジャズが方向転換しようとしていたのは明らかだった。
そんな中で成立したゴベアのトレード。ジャズが得たリターンは大きい。ドラフト指名権はもちろん、獲得した選手の質を考えると、ロケッツがジェームズ・ハーデンのトレード放出で手にしたアセットに匹敵するレベル(ロケッツはハーデン放出で4つの保護なし1巡目指名権と4つのスワップ権、ビクター・オラディポをゲット)。
ジャズが獲得した5選手の内、マリーク・ビーズリー、パトリック・ベバリー、ジャレッド・バンダービルトの3人は、どのチームでも即戦力になれる有力プレイヤー。ベバリーはハッスルプレイに定評のある大ベテランPGで、ビーズリーは得点力に長けたコンボガード。またバンダービルトは、オールスイッチできる万能な守備力で昨季にプチブレイクした23歳の若手ビッグマンだ。
▼バンダービルト
ここからジャズはどの道を選択するだろう。ドノバン・ミッチェルを中心にしたまま優勝を狙い続けるのか、それともミッチェルをトレードして0からの再建に突入するのか?
今のジャズは、そのどちらの選択肢も取れる状況にいる。得た見返りの多さを考えると、今回のトレードはプレイオフで頭打ちしたジャズにとって最善の選択だったと思う。
参考記事:「NBA」