アキーム・オラジュワン 「ビッグマンは滅びない」
以下は、「ドリームシェイク」で知られたNBAレジェンドのアキーム・オラジュワンが『The Players Tribune』に寄稿した「Small Ball Won’t Kill the Big Man」というタイトルのエッセイ。
近年のNBAでは、フロアスペーシングとハイペースを重視する「スモールボール」が主流のスタイルになり、それに伴いセンターポジションのレベルが衰退しているなどと嘆かれることもあるが、歴代屈指のビッグマンであるオラジュワンはそう考えていない。むしろ今のビッグたちは昔よりもスキルが高くて、プレイの幅が広く、時代と共に進化していると見ているようだ。
エッセイが公開されてからすでに1年以上たっているが、とても興味深い内容だったので以下に抄訳を紹介したい。
『Small Ball Won’t Kill the Big Man』
ゲイリー・ペイトンはタフなポストプレイヤーだった。
ソニックス(シアトル)にはいつも苦しめられた。ゲイリーのせいだ。彼らと試合をした翌日、私はチームメイトのマリオ・エリーに尋ねてみたことがある。確かチーム練習の後だった。真相を知る必要があったのだ。
「ゲイリーはパワーのある選手か?」
「そうでもないな」
それならば、どうしてあの小さなガードにペイントエリアで好き放題やられるのか?次に私はクライド・ドレクスラーに尋ねてみた。
「ゲイリーはパワフルな選手か?」
「それほどでもない」
「なら、どうして毎回のようにディープ・ポジションを取られるんだ?」
「それがわからないんだ。わからない」、クライドは首を横に振る。
すぐ側で話を聞いていたマリオがこっちにやって来た。
「ゲイリーに関しては、説明するのが難しい」
結局、誰も私の疑問には答えられなかった。
私はいつもこう考えていた。私はビッグマンの体を持ったガードなのだと。だからゲイリーのことをすごく尊敬していたのかもしれない。彼は常にガード以上のものになろうとしていたし、私も常に典型的なセンター以上のものになろうとしていた。
私にはあまり選択肢がなかったのだ。センターがどのようにプレイすべきかなんて、誰も教えてくれなかった。私が初めてアメリカに来たのは18歳の時。その当時の私は、NBAの試合を見たことがなかった。ただの一度もだ。カレッジでプレイするため、ナイジェリアからテキサス州のヒューストンに移住した頃、NBA選手など誰一人として知らなかった。そもそも私が人生で初めてバスケットボールに触れたのはその1年前、17歳の時だ。その頃の私のフットワークは、サッカー選手に近かった。
だが今思い返してみれば、バスケットボールに関して無知だったことは、私にとってプラスになったと思う。バスケットボールに対する先入観がまるでなかった。「センターポジションをプレイしろ」、コーチは私にそう言ったが、その意味が分からなかった。ポジションが5つあることは知っていたが、センターとスモールフォワードの違いが上手く説明できなかったのだ。
カレッジでのキャリアが始まった年の夏、練習ではよくコーチに怒鳴られた気がする。『アキーム、お前はセンターだろう!ペイントエリアから出てくるな』
私はペイントエリアにいるのが嫌だった。ガードたちのプレイを見て、彼らの自由さにインスパイアされてしまったんだ。
ペイントエリアは退屈な場所だった。
ペイントを軽快に出入りしながら、コート上のあらゆる場所を走り回る。「私がやりたいのはこれだ」、ガード選手たちがボールを操る姿を見てそう感じた。
だから私はアウトサイドのスキルを磨いた。ビッグマンのドリルだけで満足したくなかった。だからドリブルやミドルレンジショットの練習を重ねた。動きの遅いディフェンダーが相手なら、縄張りの外まで引きずり出す。そうすれば簡単にジャンプショットを狙えるし、もしくはクロスオーバーで抜いてリムを攻められる。反対にサイズの小さなディフェンダーの場合は、素早くインサイドでポジションを取って、ポストアップするだけだ。
私はバスケットボールとサッカーの間に似ている部分が少なくとも一つあることを学んだ:「ディフェンスに対して臨機応変であれ」
しばらくするとコーチは「ペイントエリアから出てくるな」などと言わなくなった。
※ ※ ※
2週間前、私はウォリアーズ対ロケッツのプレーオフ第1ラウンドの試合を観ていた(2016年)。友人たちを招いて観戦していると、いつしか会話は家の壁に掲げている一枚の写真の話になった。
それは、私とシャックが1995年のNBAファイナルで対戦した時の写真。素晴らしい一枚だ。シャックは私をペリメーターでガードし、私はドリブルをついている。ペイントエリアのずっと外側。まるでポイントガード2人が対峙しているようだ。
私はこの写真が大好きだ。2人とも若く、体が引き締まっているというのはもちろんだが、それだけではない。私がボールを受け取った瞬間に、観客が総立ちになったのを覚えている。
「お前は昔からスモールボールをやっていたということか!」、友人の一人がそう指摘すると、皆が笑った。
私がキャリアを通して打ったスリーポイントショットの数は143本。もちろん合計でだ(ちなみに成功数は30本)。そのことを皆に説明すると、ソファーに座っていた誰かが、面白がって私のスリーポイントショットのフォームを真似した。
さらに別の友人が口をはさむ、「スモールボールを発明したのは君とシャックだったのか!」
その場が笑いに包まれた。
あの写真はどこか滑稽かもしれないが、同時に今のリーグが歩んできた進化を象徴するような一枚でもある。私が現役だった頃、ビッグマンの役割は明確に定義されていた。
▼1995年ファイナルのオラジュワンvsシャック
シャックはまさに怪物だった。ポストでポジションを取られれば、それで終了。私は審判に向かって常に叫んでいたよ、「3秒だ、3秒バイオレーション!動いていない!」とね。シャックほどのサイズとスキルを兼ね備えた選手は2度と現れないだろう。
ディケンベ(ムトンボ)は理想的なセンターであり、ビッグマンの模範だった。ゴール下は彼のテリトリーであり、私は彼がどのようにヘルプサイドでブロックを決めているのかをよく研究したものだ。彼のおかげで私は成長できた。
パトリック・ユーイングはペイントエリアで対峙するのが最も難しい選手の一人だった。彼が相手の試合では、48分間を通して休む暇が少しもない。私はパトリックを大いに尊敬している。
デビッド・ロビンソンは私が知る中で最もクイックなビッグマンだ。「俊敏」や「跳ねる」という言葉を連想させる。デビッドは走れるビッグマンだった。とてもクイックかつ柔軟で、おまけにハードワーカーだった。
ヤオ・ミンもまたユニークなポストプレイヤーだった。彼とは一度も対戦していないが、ヒューストンでワークアウトする機会があった。ワークアウトの初日、まず彼は私のムーブを披露してくれた。一つずつ順番に。私の動きを研究していたそうだ。ヤオのシューティングタッチはとてもソフトで、彼のフットワークは私が知るビッグマンの中でも最高のレベルだったよ。
MJはビッグマンではないが、何でもこなせる男だった。ローポストでのマイケルはまさに天才的。まずジャンプしてから、空中で次のプレイを選択する。彼は本当にそんなことができたのだ。ブルズと対戦する時は、MJがローポストでドリブルを突いた瞬間にダブル/トリプルチームを仕掛けていた。マイケルのポストでのパスセンスはもっと評価されるべきだろう。マイケルがインサイドから我々を圧倒した時は、ちゃんと数字に表れる。そういった試合では、ウィル・パデューやルーク・ロングリーの得点が跳ね上がっていたからね。
1995年当時のNBAでは、センター2人がペリメーターにいるシーンは極めて稀だった。それが今のリーグでは、ガードのようなプレイができないとなかなか生き残れない。
「支配的なビッグマンの時代は終わったのか?」、こんな質問を投げかけられることがある。スモールボールの流行により、NBAはシューティングガードが支配するリーグになると思っているらしい。だがステフ(カリー)やクレイ(トンプソン)のようなシャープシューターだけに目を向けてしまうと、全体像が見えなくなる。ステフやクレイが特別なだけであって、決して標準ではない。スモールボールによりガード選手たちがスターになれる機会が増えたのは確かだが、私の中で最も大きな違いは、「ビッグマンが典型的な役割から解放された」という部分だ。ビッグマンがペイントエリアに閉じ込められる時代は終わった。
スモールボールのせいでビッグマンが絶滅することはない。ただポジションに関する古い考え方が消滅するだけだ。NBAではよく時代が比べられるが、今日のビッグマンたちはかつてないほどオールラウンドプレイヤーとしてのスキルが高いと言ってもいいだろう。2016年プレーオフでのドレイモンド・グリーンやラマーカス・オルドリッジのような選手を見ればわかる。センターとガードの仕事を同時にこなせる彼らのプレイには、驚かされるばかりだ。
今のリーグはさぞ楽しいことだろう。大学に入ったばかりの頃の私と同じ。センターの役割がわからない。だからガードのように振る舞う。そもそも私はポジションなんて最初から求めていなかった。
今でも現役を続けられていたなら、どれほど良かったか。ドレイモンド・グリーンのようなビッグマンとマッチアップしなければならない選手たちを気の毒に思う。グリーンはいわば身長208cmのゲイリー・ペイトンだ。あれから長い年月が流れているが、ゲイリーがどうやって我々を圧倒していたのか未だに理解できない。今後数年でグリーンのような選手がどれだけ現れるだろう?その答えは分からないが、これからも注目していきたい。
参考記事:「The Players Tribune」