セルティックスがKD獲得に関心?ジェイレン・ブラウンをネッツにオファーか
膠着状態が続いていたケビン・デュラント争奪戦に新たな動きか。現地メディアによると、最近になって昨季イースト王者のボストン・セルティックスがブルックリン・ネッツにトレード交渉を打診していたらしい。
デュラントのトレード要求という衝撃のニュースと共に幕を開けた今オフシーズンのフリーエージェンシー。マイアミ・ヒートやフェニックス・サンズ、トロント・ラプターズらが早い段階からトレードを模索していたそうだが、ネッツの要求する見返りがあまりにも膨大なため、どのチームとも交渉がなかなか前に進まないまま1カ月が経過しようとしている。
当初の報道によれば、ネッツはKD放出の代価として、将来有望な若手選手とロールプレイヤー、複数のドラフト1巡目指名権、複数のドラフト1巡目スワップ権といった超豪華な再建パッケージを求めているという。
『The Athletic』のシャムズ・シャラニア記者によると、セルティックスはトレード要員としてジェイレン・ブラウンとデリック・ホワイトの2選手とドラフト1巡目指名権(詳細は不明)をオファーしたとのこと。ネッツはそのオファーを一蹴しつつ、メインのトレード要員であるブラウンに加えて、ホワイトの代わりに昨季DPOYのマーカス・スマート、そして追加のドラフト1巡目指名権とローテーションプレイヤーを要求したそうだ。
ネッツがここまで強気のスタンスを貫けるのは、デュラントの実力や実績はもちろん、それ以上にデュラントの契約内容が大きい。
デュラントは昨年オフにネッツと4年/1億9800万ドルの延長契約を結んだばかり。延長契約は2022-23シーズンから施行となるため、今後4年は保証契約下となる。
MVP級の選手が契約残り4年の時点でトレード要求するケースは極めて珍しい。近年では、カワイ・レナード(2018年)やアンソニー・デイビス(2019年)、ジェームズ・ハーデン(2020年)らスーパースターが所属チームからのトレードを要求して移籍しているが、3人とも残り契約期間が短い状態だった。
トレード成立当時は、レナードとデイビスが残り契約1年、ハーデンが残り2年。レナードの場合は、契約最終年だったことに加えて、直近シーズンを怪我でほぼ全休、さらにロサンゼルスへの移籍希望を明言していたためトレード価値が下がってしまい、レナードの実力や年齢を考えると少し微妙なリターンに終わった(※トレード詳細)。
一方でデイビスとハーデンの場合は、ペリカンズとロケッツがそれぞれ十分すぎるリターンを獲得。特にペリカンズはデイビスの見返りとして、ブランドン・イングラムとロンゾ・ボール、ジョシュ・ハートの若手3選手、さらにドラフト1巡目指名権3つを手にしている。
セルティックスの立ち位置
セルティックスとしては、ケビン・デュラント獲得のために、どこまで選手やアセットを譲渡すべきだろう?
デュラントは言わずと知れた歴代NBA屈指のスコアラー。長身を活かしたアイソレーションでの得点力は現リーグ随一であり、オンボールでピック&ロールを指揮するハンドリングや、スクリーンを使ってキャッチ&シュートを打つオフボールのスキルも超1流だ。
どんなオフェンススタイルにも瞬時にフィットできる究極のポイントゲッター。昨季は自身のキャリアで最多3位の29.9得点と自己最多の6.4アシストを平均している。
今年でプロ15年目、34歳の大ベテランながら1ミリも衰える様子を見せていないデュラント。単純にセルティックスがデュラントとジェイレン・ブラウンを入れ替えたなら、今後数年は優勝候補筆頭チームになれるだろう。
昨季ポストシーズンでのセルティックスは、強靭なディフェンスを誇りながらも、オフェンス面がやや不振。特にウォリアーズとのNBAファイナルでは、ターンオーバー連発によりポゼッションバトルで競り負けたことが大きな敗因の一つとなった。もしデュラントが加入すれば、スコアリングの弱点は瞬時に解決する。
ただそのために、どこまで対価を支払うべきか…?
昨季のセルティックスは、ジェイソン・テイタムとブラウンのウィングコンビを軸に12年ぶりのNBAファイナル進出を果たしたばかり。しかもアル・ホーフォードを除く主力メンバーの全員が20代と、長期にわたり強豪チームとなるための基盤がすでに整っている。さらに今オフには、FAでマルカム・ブログドンを獲得してガードデプスの強化に成功した。
現状維持でも十分に来季優勝を狙えるロスター。もしネッツが報道の通り、ブラウンとスマートに追加のロールプレイヤー、さらに3~5個のドラフト指名権といった法外な見返りを要求するのなら、セルティックスは即座にノーを突き付けるべきだと思う。
昨季のセルティックスがシーズン中盤以降のリーグを席巻できたのは、守備力の高さと万能さゆえ。デュラント獲得のためとはいえ、複数のドラフトアセットに加えて、ウィング守備の要だったブラウンとスマートの2人を同時に失うのは、あまりにも大きな犠牲だ。
デュラントは来季開幕時で34歳となり、いつ衰え始めてもおかしくない年齢。現時点でMVPレベルの実力を維持しているとはいえ、34歳のベテランと26歳の若手(ブラウン)を交換するのは、将来的に見てかなりリスクが高い。
ブラウンの契約
一方でセルティックスにとっては、ブラウンをトレードしないことにより生じるリスクも存在する。
ブラウンの現契約は来季と再来季の残り2年。2024年のオフには制限なしのFAとなる。その間にセルティックスは延長契約をオファーできるが、最大で今の年俸の120%アップだ(年俸3300~3400万ドルあたり)。
2年後にFAとなってマックスでの再契約、もしくは他のチームとの4年マックス契約を結ぶ方が遥かに多くのサラリーを見込めるので、ブラウンが今後2年間でマックス延長契約の対象選手(現契約下でオールNBAチームに選出)にならない限り、セルティックスとの延長契約に応じる可能性はゼロに近いだろう。
昨季のブラウンは、自己キャリア最多の23.6得点と3.5アシストを平均。ポストシーズンでは、攻守でコンテンダーチームの2番手として相応しい大活躍を披露した。
2016年のNBAデビューから毎年のように成長を続けてきたブラウン。オンボールスキルが少し頼りなく、アウトサイドショットやプレイメイク、ボールハンドリングなど課題は山積みだが、まだ25歳で伸びしろはたっぷり。サイズと身体能力に恵まれた選手であり、キャリア中盤から開花したカワイ・レナードやポール・ジョージのようなオールNBA級のフォワードへと進化する可能性を秘めている。
デュラント争奪戦のカギとなるのは、セルティックスがブラウンの実力と将来性をどれほど高く評価しているか。そしてブラウンとの契約更新を確信できるほど良好な関係を築けているかどうかだ。
今のところ、ブラウンがセルティックスを離れたがっているという噂は一切出ていない。ただチームと選手の信頼関係なんて、ちょっとしたきっかけで大きく変化するもの。ブラウンが今回の件でトレード要員とされたことに腹を立て、2年後のFAで移籍を選択する可能性も十分にある。
もしセルティックスがブラウンを“マックスサラリー”に相応しくないと考えているなら、今が最高値でトレードできるチャンスだ。
なおブラウンは、自身がデュラント獲得のためのトレード要員としてオファーされたという報道について、「やれやれ」とツイート。
またチームメイトのジェイソン・テイタムは、トレードの噂について記者から尋ねられた際、「個人的な意見はない。僕の仕事はバスケットボールをプレイすること。KDとはオリンピックで一緒に戦った。偉大な選手だ。でも(トレードに関しては)僕が決断することじゃない。今のチームやロスターに満足している」とコメントしている。
ネッツの立ち位置
一方でネッツは、デュラントのトレード放出にどれだけの見返りを要求するべきか?そして、どこまで妥協すべきか?今オフには、ルディ・ゴベアをトレードしたユタ・ジャズが、ウルブズから将来のドラフト1巡目指名権4つとスワップ権1つを得ているので、それ以上のリターンを期待するのは当然だ。
デュラントのトレード交渉で足枷の一つとなっているのは、ベン・シモンズの存在。NBAには、他チームとルーキースケールの特定選手契約を結んだ選手をトレードで獲得できるのは最大1人までというルールがある。つまり、今のネッツには76ersとマックスでのルーキー延長契約を結んだシモンズがいるため、ジャズのドノバン・ミッチェルやヒートのバム・アデバヨ、ウルブズのカール・アンソニー・タウンズらはトレード要員として除外される。
▼現在ルーキースケールのマックス延長契約下にいる選手(デュラントのトレード要員になれない若手スターたち)
- ジョエル・エンビード(76ers)
- カール・アンソニー・タウンズ(ウルブズ)
- デビン・ブッカー(サンズ)
- バム・アデバヨ(ヒート)
- ジェイソン・テイタム(セルティックス)
- ドノバン・ミッチェル(ジャズ)
- ジャマール・マレー(ナゲッツ)
- ディアロン・フォックス(キングス)
- ルカ・ドンチッチ(マブス)
- トレイ・ヤング(ホークス)
- シェイ・ギルジアス・アレクサンダー(サンダー)
- マイケル・ポーターJr.(ナゲッツ)
- ザイオン・ウィリアムソン(ペリカンズ)
- ジャ・モラント(グリズリーズ)
- ダリアス・ガーランド(キャブス)
ネッツはデュラントよりも先にベン・シモンズをトレード放出することで、特定選手のルーキー延長契約による“縛り”をクリアできる。
ただ今のシモンズのトレード価値は、昨季の移籍騒動+シーズン全休したことで底打ち状態。このタイミングでトレードを模索するのは悪手だろう。また今オフのネッツではカイリー・アービングも移籍を望んでいるらしく、スター3選手の放出を同時進行で検討しなければならない複雑な状況だ。
そもそもネッツとしては、トレードを焦る必要がまったくない。デュラントの残り契約は4年のフルギャランティ。今夏中に決着をつける必要はなく、納得のいくオファーを得られるまで先延ばしできるアドバンテージを持っている。
仮に現状維持に落ち着いたとしても、ネッツの来季ロスターは超強力。デュラント、アービング、シモンズのビッグスリーを軸に、ジョー・ハリスやセス・カリー、パティ・ミルズ、TJ・ウォーレン、ロイス・オニール、ニック・クラクストンなどサポーティングキャストも豊富。デュラントやシモンズを含めた主力陣が100%のコンディションで復帰できさえすれば、イースト優勝候補になれる布陣だ。
参考記事:「ESPN」