2019-20NBAアワード予想その3: 新人王とMIP
NBA2019-20シーズンのアワード受賞者を予想してみた。今回は第3弾で、新人王(ルーキー・オブ・ザ・イヤー)とMIP(モスト・インプルーブド・プレイヤー)だ。
なおThe Athleticによると、コロナ・パンデミックの影響を受けた今シーズンは、リーグ一時中断となった3月11日までの成績やパフォーマンスを基準にアワードが選考されるという。
(※2019-20NBAアワード予想その1:MVPとオールNBAチーム)
(※その2:DPOYとオールディフェンシブチーム)
新人王:ジャ・モラント
今年のルーキー・オブ・ザ・イヤーは、ほぼ最初から最後まで他に対抗馬のいない独走状態だった。
2019ドラフトでメンフィス・グリズリーズから全体2位指名を受けたジャ・モラントは、59試合のスタメン出場で今季ルーキー最多の17.6得点と6.9アシストを平均。
グリズリーズは長年大黒柱を務めたマーク・ガソルとマイク・コンリーの2人が退団し、今後数年はロッタリー期に突入かと思われていたが、モラントやジャレン・ジャクソンJr.、ブランドン・クラークらをはじめとした若手選手たちの予想以上の活躍により、今季3月の時点でウェストプレイオフ圏内に入る大健闘を見せている。
ルーキーシーズンでのモラントは、新人王に相応しいスタッツに加え、非凡な身体能力とスキルを活かしたパフォーマンスでファンたちを魅了。豪快なポスタライズダンクやセンス抜群のノールック・パスなど、華のあるスーパープレイをシーズン序盤から連発した。特に鋭いペネトレーションから魅せるダブルクラッチでのフィニッシュなど、空中でのボディーコントロールが素晴らしい。
モラントがそのポテンシャルの高さを最初に世界に証明したのは、10月28日に行われたプロデビュー3試合目のブルックリン・ネッツ戦。ベテランスターであるカイリー・アービングとのマッチアップで一歩も引けを取らない大活躍を見せ、30得点、9アシストを記録してチームを勝利に導いた。
モラントは第4Q終盤のクラッチタイムに連続で難しいレイアップをねじ込むと、レギュレーション最後の守備ポゼッションではアービングのショットを絶妙なブロックで阻止。その時の立ち振る舞いなども堂々としており、デビュー3戦目にしてすでにスター選手のオーラを放っていた。
またモラントは、オンボールでの派手なプレイだけではなく、オフボールでもちゃんとオフェンスに貢献できる“パス・ファースト”なポイントガード。リーグ平均以上の成功率でロングレンジショットを沈めるシュート力があり、さらにカットのタイミングも上手い。新人ガードとは思えないほどの万能さと成熟さを持った選手だ。
▼モラントの2019-20ハイライト
一方で、今季開幕前の下馬評では「2020年新人王の最有力候補」とされていたニューオリンズ・ペリカンズのザイオン・ウィリアムソンは、レギュラーシーズン開幕直前に右膝の半月板を損傷。残念ながら2019-20シーズンの大部分を離脱することとなり、出場試合数はシーズン中断前でわずか19試合にとどまった。
実際のところ、ウィリアムソンのインパクトは期待を大きく上回るものだったと思う。
1月22日のサンアントニオ・スパーズで22得点、7リバウンド、3アシストを記録して堂々のNBAデビューを飾ると、その後も驚異的な身体能力とパワーで対戦相手を圧倒し、シーズン19試合で23.6得点、6.8リバウンドを平均。プロ1年目で23得点以上を平均するのは、1996-97シーズンのアレン・アイバーソン以来23年ぶりであり、10代のルーキーとしてはリーグ史上初の快挙だ。
今季のペリカンズは28勝36敗、平均得失点差-0.8で負け越しているが、ウィリアムソンがフロアにいる時間帯は+6.3という強豪チーム並みの数字を記録している。
2019年ドラフトクラスの“ベスト・プレイヤー”は間違いなくウィリアムソンだろう。ただMVPと同じで、新人王も「シーズンを通してどれだけチームに貢献できたか」が重要となる。どれだけ突出したスタッツを記録しても、19試合では不十分だ。
もし仮にシーズンが3月で中断にならないまま、ウィリアムソンが合計37試合に出場し、その上ペリカンズがグリズリーズを追い抜いてプレイオフ出場権を手にしていたとしても、モラントの新人王は揺ぎなかったと思う。
MIP:ルカ・ドンチッチ
「プロ2年目の選手が成長するのは当たり前」、そういった考えが定着しているためもあるのか、近年のNBAでは「ソフモア選手はMIPの対象外」的な空気があった。
前年と比べて最も成長した選手に贈られるMIPが誕生したのは1985-86シーズン。制定当初は、1986年から1994年までの9シーズン中5シーズンで2年目の選手が受賞していたが、それ以降はめっきりと減り、21世紀に入ってからは2003年のギルバート・アリーナスと2007年のモンタ・エリスのみ。ここ10年は、ソフモア選手のMIPが1度もなかった。
1年で新人王からMVP候補へと進化したルカ・ドンチッチの成長ぶりは、そんな“暗黙の了解”をぶち破るものだったと思う。
- 2018-19:21.2得点、7.8リバウンド、6.0アシスト、FG成功率42.7%
- 2019-20:28.7得点、9.3リバウンド、8.7アシスト、FG成功率46.1%
新人王を獲得した昨季と比べて、得点とアシスト、FG成功率が大幅にアップ。1シーズンに28/8/8を平均したのは、オスカー・ロバートソン、マイケル・ジョーダン、ジェイムス・ハーデン、ラッセル・ウェストブルックに次いで、NBA史上5人目の快挙だ(レブロン・ジェイムスがこのリストに入っていないのが驚き)。
個人的に、今季のドンチッチで最も成長が感じられた部分は、アイソレーションやピック&ロールからドリブルで敵陣を切り崩す能力と、リムでのフィニッシュ力。特にリストリクテッド・エリア内のFG成功率は72.8%と、ボールハンドラーとしてはヤニス・アデトクンボ(72.9%)に匹敵する驚異的な数字を記録している。
世界トップレベルのアスリートが集まるNBA基準で見ると、ドンチッチは決して身体能力が突出した選手ではない。むしろドラフト時には、NBAのスピードや高さについていけるかどうかを懸念する声が一部のスカウトやメディアから上がっていた。実際にルーキーシーズンの昨季は、サイズとクイックネスを持ち合わせたディフェンダーとの1on1に苦戦していた印象だ。
だが今季のドンチッチは、そういった弱点を大幅に克服していたように思う(クリッパーズのウィング陣には大苦戦していたが)。瞬発力やパワーといった基礎スペックが向上した部分もいくつかあるのだろうが、それ以上にテクニックの上達が目覚ましい。
絶妙なスプリットやヘジテーションを駆使しながら、決して自分のペースを乱すことなく、常に相手の一歩先を読み、ドリブルからディフェンスを切り崩す。
ラッセル・ウェストブルックのように一瞬でディフェンダーを置き去りにする超人的な“1歩目”は持たないが、ジェイムス・ハーデンと同じようにタイミングを外して相手の意表を突くのが抜群に上手い。特にドンチッチが繰り出すレッグスルー・クロスオーバーからの加速と、トップスピードから急ブレーキをかける減速についていけるディフェンダーは多くない。
今季は、ドリュー・ホリデーやドレイモンド・グリーンといったトップクラスのディフェンダーを1on1で手玉に取っていた。
▼VSグリーン
▼VSホリデー
またドンチッチは、もともとずば抜けたパスセンスを持つ選手だったが、今季はその長所がさらに伸びていた印象。特に“ロブパス”に成長を感じた。
ピック&ロールでは、サイズを活かしてディフェンダーを背中に封じ込めながらボールキープし、絶妙な角度とタイミングでロールマンへのアリウープ・アシストを量産。シーズン序盤に見せた、3Pラインの外側で片手でドリブルをピックアップし、そのままワンハンドで完璧なアリウープパスを放つプレイが特に印象的だった。
▼動画5位のロブパスが凄すぎる
そして、個人的にドンチッチの天才パサーぶりを最も感じるのは、身長とコートビジョンを活かして逆サイドのシューターに放つクロスコートパス。他にこんなパスを出せる選手は、レブロン・ジェイムスとニコラ・ヨキッチ、ジェイムス・ハーデンくらいしか思い当たらない。
21歳にしてすでに完成されたオフェンシブ・プレイヤーという印象さえあるドンチッチだが、シューティング面ではまだまだ伸びしろがある。
“ステップバック・スリー”がシグネチャームーブなどと言われることもあるが、今季のスリー成功率は31.6%。これはリーグ平均(35.8%)を大幅に下回る数字だ。
NBA.comのデータによると、ドンチッチが今季61試合で放った541本のスリーの内、その半分に当たる270本がステップバック。とにかくタフショットが多く、それが成功率が伸びない理由の一つとなっている。
難しいステップバックを少し減らし(特にゲーム終盤)、その代わりにカットやスポットアップなどオフボールムーブを増やすことができれば、それだけで得点効率が跳ね上がるはず。
それからもう一つの課題はフリースローだ。
今季ドンチッチはFT成功率が75.8%。メインのボールハンドラーとしては少し頼りない数字だ。終盤のファウルゲームで安心してボールを託せる選手になるには、せめて80%以上をキープしたいところだと思う。
スタッツ:「NBA」